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お会計を済ませてスーパーを出ると、入口にある自動販売機の影に彼がいた。声をかけると、笑いはしないものの「うん」とだけ言って、私の持っていた袋を持ってくれる。このさりげない優しさがいつまでも好き。
「いつからだ」
「え?」
唐突に、彼に聞かれた。
「いつから被害に遭っていた」
「数ヶ月前、くらい」
「…そうか」
「…うん」
「なぜ、ずっと黙っていた」
「それは、」
余計な心配をかけさせたくなかったから、と言おうとしたところで思わず彼の腕にしがみついた。
いる、後ろに。今日は彼がいるからとあまりスーパーで時間を潰さなかったけれど、彼がいてもついてくるなんて。
一瞬、不思議そうにした彼が、気づいたように小さな声で「いるのか、今うしろに」と聞いてきたので頷いた。斜め右後ろの電柱の後ろにいる。スーパーに行く途中でついてきていた人影と同じシルエットだから間違いない。
「これ、持っていろ」
彼に手渡された買い物袋。わけもわからず受け取ると、彼は躊躇なく影に歩み寄った。相手は近寄ってくる彼に怯んで走り去ろうとするが、走って追いかけた彼に首根っこを捕まってしまう。
明るみに出たストーカーの男は、知らない人だった。
「貴様か、ずっとあいつをつけていたのは」
「ごめんなさいごめんなさい」
「免許証出せ」
「も、持っていません…」
「保険証は」
詰め寄る彼に怯んで、男が財布からカードを取り出す。彼は掴んでいた男の首根っこを離して、代わりに取り出したスマホで保険証の写真を撮った。
「もう一度でも彼女に近づいてみろ。この身分証と一緒に警察に被害届を出すからな」
「ひ…っ、わ、わかりました」
腰を抜かすストーカー男に保険証を投げ返し、彼が歩いて戻ってきた。怯える私の頭を撫で「もう大丈夫だ」と一言。その手がそのまま私の手を掴んで、いつもの道を二人で歩く。胸の高鳴りが止まらない。この人と結婚してよかったと、本能から神経の隅々まで行き渡って、体中が叫びそうだ。
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