プロローグ

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プロローグ

「避けて!」  近くで叫ぶ声を聞く。  鏡面のように磨き上げられたドラゴンの牙に、一人の少女が映る。  赤みがかった茶髪を後頭部で束ね、大きな杏色の瞳は恐怖で見開かれている。小さな口は絶叫を発し、白い歯が見えていた。  暗闇でも目立つように、夜光蝶の黄色い色素を混ぜた灰色のローブ、茶色い皮のブーツ。  荒い息遣いがシュウシュウと音を立て、溶鉱炉のような真っ赤な喉が目近に見える。  ああ、これからかみ砕かれ、飲み込まれるんだ、とマイカは思った。  刹那、耳が痛いほどの冷気が空間を駆け抜け、巨大な氷柱がドラゴンを貫いた。  マイカの外套が、牙から解き放たれる。  氷柱の出どころを目線で探すと、上級沈降探査師のレンが魔法陣を組み、氷結魔法を放ったところが見えた。  先輩の援護には、いつも助けられる。 「マイカ、早くロープを登って!」  レンが叫ぶ。鋭い顔貌(がんぼう)に、理知的な黒い瞳が穴の中からでも分かる。  しかし、マイカはレンの叫びをしばし無視した。どうしても持ち帰らなければいけない物があるからだ。腹部を貫かれたドラゴンが悶絶している。  鼓膜が痛いほどの絶叫の中、マイカは下層の地面に降り、黄緑色に発光する思念石を探し当てた。  良かった。マイカはほっ、と一息つき、レンが投げ入れてくれた銀色に光るロープを握った。
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