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周囲から俗謡が聞こえる。しかし、華やかな雰囲気の酒場の一角には、歌は届かない。マイカ達のテーブルは、葬式のような愁嘆場に包まれる。
私たちの仕事はこういうものなんだ。とマイカは唇を噛んだ。
マイカたちが暮らすテラーの町には、大きな深い、穴がある。
その穴には、ドラゴンを筆頭とする凶悪なモンスターが集結しており、入って来た者を片っ端から襲うのだ。
もちろん、その恐怖に見合った報酬もある。地上では見たことのない貴金属、莫大な富、希少な薬草、天候さえ操る呪法の習得。
債鬼に追われた一文無しの男が、一夜にして抱えきれない金貨を手に入れ、豪邸を建てた。
今の医学では到底助からない病気が、洞窟に眠る霊薬のおかげで完治した。
落ちこぼれの魔法学校生が、探索を経て、大魔導士に匹敵する呪文を手に入れた。
奇絶の穴には、成功譚も多く語り継がれる。
奇絶の穴とは、神の気まぐれによる奇跡か、悪魔の陥穽による絶望か、分からないから名づけられた。
未だに穴の底にたどり着いた者はいない。地下何階層まで存在しているのか、どんな宝が眠っているのかは定かではない。一説には、最下層には死者蘇生の秘術が眠っていると言われる。
マイカ達、沈降探査師の仕事は、穴に挑み、不幸にして夢破れたダイバーの最後の記憶を、すなわち思念石を持ち帰ることだ。
思念石は、死者の最後の気持ちを、少ない文字ながら保存できるというアイテムだ。穴に挑む者は、お守りとして常備している。
思念石の特徴は二つある。一つは、魔物の身体をすり抜けることだ。ドラゴンに食べられても、スライムに溶かされても、石はぽとりと地面に落ちる。
もう一つの特徴は、そうして落ちた石は、穴の中では女性にしか見つけられないということだ。男性には、小石程度にしか映らないが、女性には、燐光を発する石として認識される。
そこで、マイカやレンのような沈降探査師の仕事が生まれる。
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