沈降探査師

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「あんたの上級沈降探査師試験、推薦状は保留にするわ」  大分酒と料理が進んだ時、レンが口を開いた。 「え、何でですか。今日、頑張ったじゃないですか」  レンの言葉は、マイカにとって心外だった。 「沈降探査師の3か条、言ってみな」  上司は酒でとろんとなった目をしながら聞いた。 「一つ、思念石を見落とすなかれ。一つ、思念石を偽造するなかれ。一つ、英雄の死よりも恥辱の生を選ぶべし」  沈降探査師なら、初級探査師まで(そら)んじることのできる言葉だ。 「私は、きちんと思念石を回収しましたよ」  マイカの強い言葉に、レンは、 「でも、あんたはドラゴンに喰われる危険を冒して、英雄の死を選びそうになった。スジはいい。能力もある。だけどともすると、3か条が守れなくなるのが欠点だ」  タマネギのスープをかき混ぜていた銀のスプーンを突き出され、マイカは 「うっ」  とうめいた。図星だった。  3か条の内、思念石の偽造は分かる。死者の最後の言葉を偽造するのは尊厳を傷つけることと同義だし、下手をすれば遺産分配のトラブルに発展する。  しかし、思念石の発見と、死の危険を説いた第1条と第3条は時として両立しない。マイカには良く分からないが、大学の法院でも議論になっているという。 「それに、あんたはまだ若い。16の娘だ。家庭に入るという選択肢も、そう悪いものでもないぞ」 「そうだよ姉ちゃん。そんなかわい子ちゃんは、嫁に育てるべきだよ」  聞き耳を立てていたのか、金髪の男が横から口出しした。 「私は、上級沈降探査師になりたいんです。レン先輩なら分かってくれると思ったのに」  マイカは知らず知らずのうちにこみ上げてきた涙をぬぐった。 「そりゃ、分かってるよ。あんたの親父さんはダイバーで、冒険に出かけたままで帰ってこない。母親も沈降探査師として穴に潜り、消息不明だ。親父さんとお母さんを見つけたいという気持ちは痛いほど理解しているつもりだ」 「だったらなぜ」 「あんたも若い命を、穴に喰われるかもしれない。それを心配しているんだ」  何も言い返せなかった。だが、マイカは心底穴に入りたくて仕方がなかった。 「上級沈降探査師試験受験資格、次もう一回一緒に潜ってから決めるから」  酒を飲み干し、レンが宣言した。 「ありがとうございます」  マイカは頭を下げた。 「さて、今日は仕事も終わったし、寝よう。体力と魔力を回復させないとな」
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