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少年の発見
マイカは木製のベッドから起き上がり、大きく伸びをした。睡眠中に凝り固まった身体が解放されていくようで気持ちがいい。
窓からは、新鮮な朝の太陽が見え、陽光が降り注ぐ。眠気が一瞬で吹き飛んだ。
マイカは単身寮の机にある、両親の写真投影機を見た。朝の儀式だ。父クルーはダイバーとして、母アニタは沈降探査師として、ともにマイカが2歳の時に穴に消えてしまった。
だからマイカは父親の顔を覚えていないし、母親には抱っこされた、わずかな記憶しか残っていない。写真の両親は、相変わらずマイカを抱いて、笑っていた。
ダイバーと、沈降探査師のタッグは大抵上手くいかない。沈降探査師はレディーと見なされないため、世間から尊敬されず、まともな婦人と言われない。
夫であるダイバーも、墓荒しと組んだと見なされ、パーティーから追放される。町の主だった商店からは、希絶の穴から持ち帰ったアイテムの売買を拒否され、鍛冶屋からは新たな武器、防具の作成を拒否される。
それでも、両親はマイカという娘を生み、大切に育ててくれたと信じている。
マイカはパンにバター、固ゆでのゆで卵を用意して、かじった。バターの甘じょっぱさと、ゆで卵の優しい甘さが口いっぱいに広がる。
朝食を食べ終え、マイカは仕事に頭を切り替えた。
今日は上級沈降探査師の査定に関わる重要な仕事だ。
沈降探査師は初級、中級、上級と区分が分かれる。
初級沈降探査師の仕事は、穴の上部、構造が分かっている区画での探索と、集団探索団の末席を任される。
マイカのレベルである中級沈降探査師は、穴の中部、群生する魔物が強い領域と、上級沈降探査師の弟子となり、構造が分からない、未踏の地区での思念石の捜索を任される。
上級沈降探査師は、未踏の地に踏み入って、消息を絶ってしまったダイバーの思念石を回収するのが主な仕事だ。構造も分かっていない、未知の領域を捜査することになる。
穴の深部は、時間によって構造が変化する厄介な地区だ。当然、詳しい地図は作成できない。
希絶の穴を探検するダイバーは、事前に計画表を委員会に提出する規則がある。穴の上部で無難に探索をするダイバーは、ほぼ規則を守ってくれる。しかし、大いなる発見や呪法の獲得を目的とするダイバー達は、無断で穴の奥深くに入る。そういった人たちの死体を見つけ、思念石を持ち帰ることは容易ではない。
マイカが憧れるレン先輩は、20の時に上級沈降探査師の免状を得た。上級沈降探査師になれば、単独でどこまでも潜ることが許されるし、レンに対するマイカのように、弟子をとり、後進の育成を行うことができる。
マイカは寝間着から綿の下着に着替え、魔法石の胸当て、灰色のローブ、紫電のムチ、斬鉄のナイフを慣れた手つきで装備した。
装備品はダイバーが男性のため、女性用に町の鍛冶屋で打ち直してもらうことがほどんどだ。出費がかさむ。マイカの部屋は年頃の女性としては物が少ない。華美な装飾品はほとんど持っていない。
それでも、マイカは上級沈降探査師になりたかった。
レンの仕事場に、速足で向かった。
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