少年の発見

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「おはよう、マイカ」    マイカが部屋に入ると、レン先輩は部屋の(はり)で懸垂をしていた。  下着に近い、肌に密着した黒い服を着ていたため、二の腕や肩の筋肉が盛り上がっているのが見て取れる。 「ふう、」  と息を吐き、机に座った。  レンは上級沈降探査師として、独立で事務所を持っている。探査師の中には大きなギルドに属する者もいるが、先輩は複雑なルールを嫌がり、単独行動を好んだのだ。  レンの部屋は、書架には魔導書や、賢者の残した探索術の本が並び、棚には持ち帰ったアイテムが所狭しと置かれている。 「毎回聞いて悪いが、本当に沈降探査師志望なんだな。お前はまだ16で若い。女でも入れる大学の推薦状なら今すぐ書いてやるし、学問が嫌いなら家庭に入るという選択肢もある。どちらも、悪くないものだぞ」 「先輩だって、独身で、沈降探査師やってるじゃないですか。私の母は、結婚しながら沈降探査師をやっていました。今は、早く上級の免許を取りたいんです」  マイカの言葉に、レン先輩は「そうか」とうなずいた。30代後半の顔には、全盛期の弾けるような肌の張りとつやは衰えてきたが、代わりに深い思慮や、経験に基づく冷静な判断力が刻まれていた。 「最近では、呪われた碑文に書かれた文句が、迫ろうとする嫌な兆候があるしな」  呪われた碑文とは、14年前、当時の希絶の穴の最深部から発掘された石に刻まれた文字だ。 『としが14かいまわったよる、のろわれたほし、ちじょうにあらわる』  学院では 『年が14回回った夜、呪われた星、地上に現る』  と解読されている。  今年が14年目の年なのだ。  レンは棚に向かい、大きな羊皮紙を取り出し、テーブルに広げた。長い間埃をかぶっていたのだろう。ちりでくしゃみが出そうになる。 「今日探索するのは、地下56階層、EからG地区だ。新たな魔法を会得しようと潜ったダイバーが、そこで行方不明となったという話を聞いた。56階層は全容は不明だが、この地図にはある程度の情報が詰まっている。20分で頭に叩きこめ」  そう言うと、レンは自身の装備に取り掛かった。  いつもの慣れた手つきで鋼の鎖帷子(くさりかたびら)を着、その上にローブを重ねる。鋲のついたブーツを履き、ナイフをブーツに仕込む。赤く輝く魔道石が装着された杖を持ち、風の精霊の力を宿すと言われるリングに腕を通した。  マイカはレンのきびきびとした動作に見とれながら、地図の地形を懸命に頭に入れた。
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