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レンの言う通りだ。魔法力が尽きれば、後は女の細腕しか武器は無い。呪力を持った護符は常に持ち歩いているが、荷物の都合上そうそう乱発するわけにはいかない。
地下50階層まで到達した。外から入る明かりはもう無い。蛍光樹脂を塗った疑似松明だけが頼りになる。二人とも蛍光呪文はマスターしていたが、魔力の節約のため、アイテムに頼ることにしている。
地面は先ほどとは打って変わって、黒曜石のような硬い地盤になっていた。足音が響くため、モンスターに見つからないように忍び足で歩く。
さすがに装備が重くなってきた。マイカ達の装備は、呪法がかかったものがほとんどで、実際の鉄よりもはるかに軽く、立ち回りには向いているが、それでも金属には変わりない。胸当てが肩に食い込み、地味だが確実に体力を奪ってゆく。
「いったん、ここで休憩しよう」
黒曜石が平に張り出したテーブルのような広間で、レンが提案した。
「分かりました。すぐ、準備します」
マイカは軽重の大袋からは魔封じの護符と、聖域の護符を取り出し、周辺の壁に貼り付けた。これで、よほどのモンスターでなければ立ち入ることはできない。
背負っていた荷物を地面に下ろし、肩と首の筋肉を回し、マイカは「ふう、」と一息入れた。
凝縮水から搾り取った水をタオルに浸し、首元やわきの下を拭く。良い装備をしていても、これだけ長時間、深く潜れば汗と泥で気持ちの悪いアカがこびりつく。マイカは丁寧にふき取り、不快な汚れを取り去った。
レンはそんなマイカを横目で見ながら、軽い火炎呪文でパンをあぶり、香ばしい匂いが漂う中、斬鉄銀のナイフを布で拭いていた。
チーズをのせたパンで軽食をとる。香ばしいパンに、とろりとした濃厚なチーズが食欲をそそる。胃の腑におさまれば、温かな満足感に包まれる。
こうしてモンスターの出没するエリアでリラックスできるのは、仕事が板についてきた証拠だ、とマイカは自己評価した。
一時間ほど逗留し、再び沈降作業に入った。今度は、先駆者のダイバーが残した痕跡呪文の後をたどる。
黒曜石のキラキラした地面で、わずかな痕跡をたどるのは難しいが、マイカは目を皿のようにして後を追った。
地下56階層。
痕跡呪文の痕がめっきり少なくなった。マイカが探しあぐねると、
「そこ、通路がずれている」
「右に進めばあるはずだ」
とレンが地図を見ながら、的確にアドバイスを送る。
慎重に歩を進めると、祭壇のような広い空間が現れた。
何か動くものがある。
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