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父と正式離婚した母は、しばらくして働き始めた。あれ以来、「勉強しろ」とは全く言われなくなっていた。あんなに私に集中していた母の関心は一気に霧消してしまったらしい。父の気持ちをつなぎとめることが出来なかったから。
そして働くことを決めた母は気づくことになる。自分が働き始めると、家に私一人がいることになると。遅まきながら学童に入れようとしたらしいけど、公立の学童は締め切った後で、いろいろ調べた末、宮代の父の親戚が実質営んでいた私立の学童に入れられることになった。そこは勉強だけじゃなく、お稽古事もいろいろみてくれるところだったから、親としても好都合だったのかもしれない。
「ここの学童、行ってみない?」
「うん、楽しそうだからいいよ」
お試し体験に行ったその日に私の学童生活は始まった。その学童は確かにそこそこ楽しかったんだと思う。だって一人で家にいるのに比べたら間違いなく。誰からも期待されなくなったあの頃の私は、ホッとした半面、やっぱり寂しさも感じていた。まだ小さかったし。ただ、「楽しい」と言った言葉の裏には、私なりの母への気遣いがあったことも否めないけど。
そして、そこで初めて私は唯仁に会った。先生に紹介される私を唯仁は静かに、ちょっと遠くからながめていたと思う。他のお友達がわいわいと私の周りに集まってきてくれたけど、彼は読みかけだったらしい本に再び目を落としただけだった。
嫌われたのかなと心配したけど、それが彼の普通だったらしい。
だから、母より唯仁と過ごした時間はずっと長い。
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