家族です

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 実家、つまりは宮代の家に帰ることになって、ちょっと昔の頃のことを思い出していた。あの家で母が再婚を決めてから、中学高校の6年間を過ごしたのだ。  小学校も3年生くらいになれば、そろそろ学童に行かせなくても、どうにかなるものだ。だから私は4年生に上がる段階で学童を辞めた。でも夏休みという長期休暇をどうやって乗り切るかは、4年生になっても働く親にとっては喫緊の課題だったらしい。 「夏休み、昔行ってた学童のサマーキャンプがあるらしいんだけど、行ってみない?」  あの頃の私はもう、母に言われれば、断ることは、ほぼ許されないことだと知っていたし。  かつて通っていた学童が主催しているとはいえ、いきなりサマーキャンプだけ参加するというのは正直、辛い。もう知っている友達は大方いないだろうし、新しく友達が出来るか、不安もあった。それでも「唯仁君も来るらしいわよ」と言われれば、心の中でちょっとだけ、ほっとしていた。とりあえず、知り合いがいる。唯はサマーキャンプ主催者の親戚筋にあたるわけだから、強制的に参加させられていただけなのかもしれないけど。でもあの時の私にはとても心強い存在だった。 「久しぶりだね」 「久しぶり」  相変わらず、そっけない。逆にそれに安心したりして。気が付けば、1年ぶりに会う唯の視線が以前よりずっと近くなっていた。なんでだろうと思うまでもなく隣に立つ彼を見て納得。彼も背が伸び始めていたんだ。そして、その時もやっぱり、私たちはそんなに仲良くなることはなかったけど。    それからも休みごとにキャンプには何度か参加した。ほぼ強制的に。なかには長期のものもあり、海外という選択肢もあった。実家からの支援を取り付けたらしい母は、私の承諾を待つまでもなく私の参加を決定していたし。唯仁の参加はその頃には確認するまでもない当たり前のことだったから、彼とは年に何度かは会う機会があった。それは多分、私が参加するにあたっての安心材料の一つではあったのだけど、でもやっぱり彼に会ったところで挨拶程度の会話しか成立しない。 「元気だった?何か変わったことあった?」私なりに会話の継続を試みたのだけど、そっけなく「別に」と言われて終了。まぁ、それが彼の通常運転だったから、逆に言えば、私たちの仲はそれ以上、悪くなることもなかった。  今にして思えば、幼少期から海外で学習経験を積めたおかげで、私も唯も英語アレルギーを感じることはその後もなかった。今となっては、感謝はしている。  何度目かのキャンプからの帰り、なぜか唯と、初めて会う唯の父、私、母で食事に行くことになっていた。そこで聞かされたのは私の母と唯の父が再婚するという話だった。 「あれってさ、子供たちをキャンプに参加させている間に、二人でデートをして結婚を決めてたってことだよね?」そんなことを後で唯に言われたことを今でも覚えてる。デートに子供たちが邪魔だったから、キャンプに参加させていたということか?その大人の事情に納得がいくようないかないような、モヤモヤがあった。 「秋穂、唯ちゃんたちと一緒に暮らさない?」  連れていかれたレストランで母がいきなり口火を切った。そうだ、母が唯のことを初めて「唯ちゃん」と呼んだんだっけ。 「いいよ」  その時も私は母にそう答えたと思う。その様子をいつもの面白くなさそうにしている唯が少し驚いたような顔をして私を見たことを覚えている。彼は私より先に父親から再婚話を聞かされていたらしく、多分、私が断ると思っていたようだった。 「僕ときょうだいになるの、嫌だって言うと思ってた」 「なんで?」 「秋は僕のこと好きじゃないでしょ?」 「別に嫌いでもないよ」  そう答えたら、いつも面白くなさそうな顔をしている唯がちょっと困ったような顔をした。 「唯は一緒に暮らすの、嫌じゃないの?」 「秋ならいい」  予想外の答えに私は唯の顔をマジマジと見てしまったらしい。唯の顔が珍しく赤くなっていく。なんだ、唯って私のこと嫌いじゃないんだって納得したら思わず笑ってしまった。 「笑うなよ」  唯のことを可愛いなって思った瞬間だった。人に対して可愛いっていう感情を抱いたのは初めてだったと思う。  
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