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秋穂が「お安い」女だったら、どれだけ楽だったと思ってるんだよ。
そう思いながらも、曲がりなりにも秋穂から俺にキスをしてきた事実にニヤケが止まらない。
「なんか楽しいことでもありましたか?」
このタイミングで声をかけてくるのは、この人以外にはいないだろう。
「おはようございます。来栖社長」
「おはよう、宮代君。朝っぱらから呼びつけちゃって悪かったね」
絶対『悪かった』なんて爪の先ほども思っていいないだろうに。
「それで、僕への報告は?」
「報告?」
「この前の事前申請なしの秋穂ちゃんの外泊の件だけど?」
この人は俺を吊るし上げて楽しもうとしているのが見え見えなんですけど。
「別段、報告するようなことは何も」
「手は出してませんとでも?秋穂ちゃんの様子が朝から微妙だったんだけど、あの日」
「あいさつ程度のキスならしましたけど」
「それだけ?」
「残念ながら」
「宮代君って、我慢強いというか、ただのM気質なのか、純粋に意気地のないヤツなのか」
「どっちにしろ失礼なこと言われてませんか?」
「さっさと結論だしなさい。こっちが待ちくたびれる」
「待っててくれてるんですか?」
「君たちの式場の下見とドレスの予約はいくつか済んでいるし」
「マジですか?」
「私も何事にも準備に時間をかけるタイプではあるけど。それが成功の奥義だし。それにしても、君たちは時間かかりすぎ」
「秋穂、そのこと、知ってるんですか?」
「この前、下見は一緒に行ったよ。彼女は僕の結婚のことだと思ってるみたいだったけど」
「来栖さん、そういう相手いるんですか?ちょっと意外」
「話をすり替えない。それに、それはそれで失礼な質問だと思うけど」
来栖社長の交際相手?なんか雲をつかむみたいに現実味がないなと、その時は思った気がする。どっちにしろ俺的には全く興味ないけどね。来栖さんの恋愛事情なんて。自分のことでいっぱい一杯だ。
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