お詫びだそうです

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「ちなみに来栖さんから式場とドレス、予約済だって聞いてる?」 「あぁ、あれは、あおにぃの」 「俺と秋穂のね」 「へっ、マジで?てっきり、あおにぃと武藤さんのかって」 「武藤さんって誰?」 「私の上司で、会社の創業メンバーの一人、あおにぃの大学時代からの友人」 「本当にいたんだ」 「えっ?」 「いや、こっちの話だし」 「武藤さんへのサプライズなのかと思ってて。だから、私、スッゴイ真剣モードで下見行ってたのに」  隣でブツブツ言い続ける秋穂の、リングの嵌まった左手をとって手をつなぐ。 「何も変えないからさ」 「えっ?」 「秋穂の望む形でいいから」 「望む形って、それって、今と変わらないってことでいいの?」 「まぁ、家をリフォームしたら一緒には暮らしたいけど。飯は俺、作るし。基本、今まで通りで」 「ホントに今まで通り?」 「但し密度は濃いめでお願いします。」  俺の言わんとするところをどうとったのか分からないけど、心なしか秋穂の顔がほのかに赤くなる。 「だから、これからはずっと俺のそばにいると約束して欲しい。結婚式は俺が秋穂の花嫁姿見たいから挙げたいけど、入籍のタイミングは秋穂に任せてもいいし。プロポーズも秋穂が望むなら、望む通りのシチュエーションでするし。跪けというなら跪いて指輪を差し出してもいい。秋穂のリクエストのままに。だから言わせてほしい」 「えっと?ちょっと待って、心の準備が」  心の準備期間なんて、ずっとあっただろうに。  手をつなぎながら、お散歩してきた俺たちは公園のベンチに腰を下ろす。指輪が輝いているように見えてしまっている秋穂の左手が猶更、愛おしい。その手の甲を指先で撫でながら、軽くキスをする。 「秋穂、好きだよ。愛してる。ずっと一緒にいたい」  重くなり過ぎないように、なるべく世間話でもするみたいに、言葉を紡ぐ。 「唯?」 「やっと言わせてもらえた」 「えぇ、なんか、さすがに照れるじゃん」 「何が?今更?」  照れまくる秋穂も新鮮だけど、やっぱり可愛いと想ってしまうんだから俺もかなり重症だ。自覚してたけど。 「やっぱさ、こういうことは、お高いレストランの夜景の見える窓際の席でキャンドル点けながらとか、ワインとかを(たしな)みながらで聞いてみたいなぁ」 「何だよ、やっぱり秋穂もそういうのがよかった?」 「一応、女子だし」 「じゃあ、これから予約するわ」 「いい」 「なんで?」 「もう十分だから。でも美味しい料理とお高いワインはいつでも歓迎」 「十分なの?レストランならすぐに予約するけど」 「えっと、その・・・ありがとう」  言葉を切った秋穂は自分の左手の薬指を右手で撫でる。 「キレイ。なんか、すごいご褒美もらったみたい」 「気に入ってくれたわけ?」 「指輪、人から贈られるの、初めてだし。ちょっと感動してるかも。」  俺が初めてでよかった。結局、寛一郎は渡せずじまいだったもんね。 「唯は、その、ずっと待っててくれたんだよね?」 「待ちくたびれて、瀕死の状態だったけど」 「嘘つけ」 「ここで死ぬわけにはいかない」 「私より先には死なないでよ」 「平均寿命でいくと、それはちょっと無理そう」  顔を上げた秋穂と視線を絡めた。恥ずかしそうに、ちょっと俯く秋穂はこれはこれですごくいい。でも、このシチュエーション、ちょっとシリアスになりすぎてないか。こちらの心臓がもたないかも。 「しっかし、待ったわぁ。挙句に俺、来栖さんの会社に行くことになったし」  少しだけ、いつものモードに戻してみるか。 「えっ?」 「聞いてない?秋穂に指輪贈りたいって言ったら、その前に来栖さんから自分の会社に転職してこいって言われたから」 「何それ?そんな大切なこと、私のせいで決めちゃ、ダメじゃん」 「別に来栖さんの会社、悪くないよ。将来性もあるんじゃない?」 「だって、唯、今の会社、外資金融でお給料もいいって。それに仕事、やりがいがあるって、言ってたじゃん」 「あっ、俺、来栖さんの会社で将来の役員待遇、約束されてるから、言質とってある」 「役員?」 「そこは勿論、事前に事細かに交渉しましたよ、来栖社長と」 「そうなの?」 「俺のこと、誰だと思ってる?」 「唯だけど?」 「出来た弟を演じ続けて、幾年月。そして、その実体は、とっても優秀な将来有望のエリート会社員」 「そこまで言う?」 「そんでもって、秋穂のエターナル・パートナー」 「何それ?」 「二人の関係性は今迄みたいにプラトニックじゃなく、スキンシップ多めでお願いします」 「はい?」  そう言いながら、また秋穂の指輪をしている左手の薬指にキスをする。 「指輪は先に嵌めたもん勝ち」  寛一郎、悪いけど、この勝負は俺がもらった。  大丈夫、秋穂のことはちゃんと大切にするから、安心して見守っててよ。
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