エピローグ

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エピローグ

「今度来た宮代唯仁さんって、独身かなぁ?」  只今、会社でマンスリーで開かれている女子会的なランチタイムに参加中。この手のシチュエーションで話題にのぼりがちなのは、新しく入った社員の噂話。それが今回は唯なわけだけど。結構、話題になっているらしいんだな、これが。とても仕事の出来る、スマートでフレンドリーな優良物件。誰のことだろう?と言いたくもなるけど、そこはお口にチャック。彼はどうやら絶賛、女子社員の間で人気沸騰中らしい。 「芦原さんは宮代さんみたいなタイプ、どうですか?」 「えっ、私?」 「芦原さんは社長のOKがまず出ないとダメですよねぇ」  皆さんに結構、勝手なこと言ってくれてます。  まぁ、今となっては、私が来栖社長の妹であることは既に周知の事実だし。ただ私が転職してきたときは、社長愛人説も流布されていたらしいけどね。人の噂は怖い。 「採点厳しめの社長でも、宮代さんなら大丈夫じゃないですか?芦原さんもそう思いませんか、?」  いやいや既にOKは出てますけどね、あおにぃから、と心の中で呟く。  なるほど、唯はモテるのか。 「イケメン度では社長に軍配だけど、旦那さん候補としては確実に宮代さんが上」  あおにぃはイケメン・カテゴリーか。社長だし、将来は約束されてるし。あのちょっと冷たそうなところが、逆にカリスマ性があるととらえられたりするらしい。学生時代も文句なしの上位ランキングに君臨していたと武藤さんが言ってたっけ。 「社長も宮代君も売約済みだから、他をあたろうね」 「武藤さん、それってマジですか?」 「武藤さん、それ、どこ情報?フェイクとかじゃなく?」  ワイワイと盛り上がっていたランチタイムの女子トークを破壊的に蹴散らしたのは、わが上司にして、あおにぃのフィアンセ、武藤さん。 「社内秘にでもするつもりなの、芦原さん」 「いやそこまでは、別に」  武藤さんに耳元で囁かれた。そろそろランチタイムも終わりだからと女子会はお開きになり、三々五々、皆、オフィスに戻っていく。 「写真撮影と結婚式は終わったじゃない?」 「そうなんですけど、相手の詳細までは会社では言わなくてもいいかなぁって思ってたら、逆に今となっては言えなくなっちゃいました。戸籍上は入籍はまだだし。」 「入籍予定は?」 「未定です。」 「まぁ、旦那が同じ会社というのは、ちょっとやりにくくなるか。この状況、女子社員、敵に回したくないもんね」 「怖いこと言わないでください。それより武藤さんたちこそ、いつ挙式するんですか?」  オフィスに帰る道々、ちょっとだけ武藤さんと秘密のおしゃべりに興じる。  さっき、さり気に「社長も売約済み」って言いきってた武藤さんの意向を確認したい。 「まぁ、おいおい」 「そんなこと言って。タイミングって大切ですよ。」 「芦原さんには言われたくないわ。」  これには私も押し黙るしかない。  私はこの前、唯との初めての海外旅行、実質的なハネムーンと言っていいのか、長めの前倒しの夏休みを頂いたばかりだ。唯に、転職のタイミングじゃないと、長期休暇が取りにくくなるから、行っておこうって言われたから。要は転職してきたら、当分、忙しくなるぞとあおにぃに脅されたらしい。  そして帰国後、リフォームが終わった宮代の家に引っ越した私は、唯の宣言通り、唯手作りの料理を毎晩堪能させていただいております。以前と同様、ごみ捨て、掃除はちゃんと私がやってるし。唯の方は転職したばかりで、まだ生活リズムが確立していないらしく、週末にまとめて料理を作って冷凍庫にストックしてくれているのが最近のパターン。早く帰った方が、電子レンジでチンするわけで。  私だって、唯の週末のクッキングタイムに一緒にキッチンに立つことも増えたのだけれど。手伝おうとしたところで、私、足手まといなんだよね。無駄のない動きの唯の手を止めさせるのは、いつも私だと自覚してしまった。出来ない私でゴメンナサイ。空を見上げながら、心の中で手を合わせる。 「蒼紫がまた鍋パやろうって言ってた。宮代君の味が恋しいらしいよ。」  武藤さんの一言に現実に引き戻された。 「それって、私の味は恋しくないんですかね?」 「まぁ、そこはキャリアの差じゃない?」  キャリアの差ってなんだ?私の料理は懐かしくないのね、あおにぃ。私だって一緒に暮らしてた時は、そこそこ料理したはずなのに。そもそも、唯の料理をあおにぃが食べたのは、あの鍋パの時だけじゃない?  まぁね、確かに唯の作った料理の方がおいしいのは事実だけど。 「ちなみに武藤さんって、料理上手いですか?」 「生きていくために食べるって感じかな。」 「それって、どっち?」 「ご想像にお任せします。」  武藤さんは私サイドとみた。  キャリアを確立してきた働く武藤さんは、純粋に格好いいと思う。そんな彼女を最終的に選ぶことに決めたらしいあおにぃを私はちょっとだけ見直した。あの人のことだから、トロフィーワイフ的な女性を選んじゃうじゃないかって、ちょっと心配したこともあったから。そういうタイプの義姉であれば、私的にはお付き合いを出来ればご遠慮したいと思っていたし。その手の女性は美郷さんで十分。 「武藤さんでよかったな。」 「なにが?」 「一応、義理の姉的な?」 「ほぉ?となると宮代君は私の義弟だよね。じゃあ、さっきの稟議、何が何でも通させよう。将来の義姉権限で」 「それはどうなんでしょう?唯、結構、容赦ないですよね?」 「論理的に詰めてくるから、反論出来ないんだよね。宮代君、頭のいい、タフネゴシエーターだから。」  唯は既に武藤さんに一目置かれる存在になっているらしい。武藤さんの今度のプロジェクト、かなりの予算額を計上していたような気がするけど。会社の財務を一手に担当している唯が、簡単にOKを出すとは思えない。また、揉めるんだろうなぁ。今回はどっちに軍配が上がるやら?痛み分け? 「いざ、バトルフィールドへ」  勇者 武藤がオフィスにご帰還です。
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