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02.ここは私が払っておきます
「今日一日、康平さんと過ごせてとても楽しかったです。男の人とこんなに楽しく過ごしたのは、すごく久しぶりで」
夕食後のデザートも食べ終わり、並んだ皿はみんな空。
「俺の方も綾乃ちゃんと過ごせてすごく楽しかったよ」
綾乃はおそるおそる切り出す。
「あの……、もしよかったら私とまた会ってくれますか?」
「『ここには悪霊がいるから、この壺を買いなさい』って言わない限りはね」
冗談めかした康平の言葉に、綾乃は思わず吹き出す。
「もう、悪い人なんだから。そんなに女の人の扱いが上手い康平さんなら、いろんな女の人を泣かせてきたんじゃないですか? きっと恨みを抱いてる女の人の幽霊が取り憑いてるかもしれない」
さっきの康平のように冗談めかして口にした綾乃の言葉。康平は一瞬だけ冷たいものを背中に感じる。けど、それを綾乃に気付かれないように、康平はまいったなというように首を左右に振る。
「俺は女性の扱いなんてぜんぜん上手くないよ。今日は綾乃ちゃんと一緒に過ごせて、すごく楽しかっただけだから。本当に。
じゃあ、今日のところはそろそろ切り上げようか」
康平は自分の財布を手に取り、綾乃とレジに向かう。けど、財布の中の現金は食事代には足りない。電子マネーの残高も足りない。レジの前で康平は慌てふためきクレジットカードを探すけれど、クレジットカードも見当たらない。
「カードはいつも家に置いてるんだった。使いすぎないように」
康平は言い訳のようにそう口走る。二人の後ろに並ぶ他のお客が、首を伸ばして二人の様子をうかがう。
「ここは私が払っておきますから」
焦る康平を見かねて綾乃が財布を取り出し、食事代を支払う。そんな綾乃に康平は気づかれないようにほくそ笑む。「うまい具合にかかったな」と。
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