02.ここは私が払っておきます

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

02.ここは私が払っておきます

「今日一日、康平さんと過ごせてとても楽しかったです。男の人とこんなに楽しく過ごしたのは、すごく久しぶりで」  夕食後のデザートも食べ終わり、並んだ皿はみんな空。 「俺の方も綾乃ちゃんと過ごせてすごく楽しかったよ」  綾乃はおそるおそる切り出す。 「あの……、もしよかったら私とまた会ってくれますか?」 「『ここには悪霊がいるから、この壺を買いなさい』って言わない限りはね」  冗談めかした康平の言葉に、綾乃は思わず吹き出す。 「もう、悪い人なんだから。そんなに女の人の扱いが上手い康平さんなら、いろんな女の人を泣かせてきたんじゃないですか? きっと恨みを抱いてる女の人の幽霊が取り憑いてるかもしれない」  さっきの康平のように冗談めかして口にした綾乃の言葉。康平は一瞬だけ冷たいものを背中に感じる。けど、それを綾乃に気付かれないように、康平はまいったなというように首を左右に振る。 「俺は女性の扱いなんてぜんぜん上手くないよ。今日は綾乃ちゃんと一緒に過ごせて、すごく楽しかっただけだから。本当に。  じゃあ、今日のところはそろそろ切り上げようか」  康平は自分の財布を手に取り、綾乃とレジに向かう。けど、財布の中の現金は食事代には足りない。電子マネーの残高も足りない。レジの前で康平は慌てふためきクレジットカードを探すけれど、クレジットカードも見当たらない。 「カードはいつも家に置いてるんだった。使いすぎないように」  康平は言い訳のようにそう口走る。二人の後ろに並ぶ他のお客が、首を伸ばして二人の様子をうかがう。 「ここは私が払っておきますから」  焦る康平を見かねて綾乃が財布を取り出し、食事代を支払う。そんな綾乃に康平は気づかれないようにほくそ笑む。「うまい具合にかかったな」と。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!