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01.ここには悪霊はいないけど
「そんなに見つめたら照れちゃいますよ……」
恥ずかしげに下を向く綾乃。すっかり夢中のような視線を綾乃の横顔に注ぐ康平。
大通りに面したカフェ。春めいた日差しに道ゆく人々は軽やかな足取り。
康平は綾乃をやさしく包み込むように見つめる。
「俺はもっと綾乃ちゃんのことを知りたいんだ。二人で会うのはまだ二回目だけど、だからこそ」
綾乃は康平に向き直る。
「じゃあ、すごく変な話をしますけど、引かないですか?」
「ものすごく変な話なら、逆に聞きたいよ」
綾乃は少しためらったあとに切り出す。
「信じられないかもしれないけど、私って霊感が強いんです」
「霊感?」
康平は大げさに目を見開く。
「はい。たとえば近くに幽霊がいるときは、それがわかるんです。特に悪霊がいると気分が悪くなるくらいに」
「じゃあ、今ここに幽霊とか悪霊がいたらわかるの?」
「はい。ここには悪霊はいないけど、幽霊なら普通にいますよ」
カフェの目の前の大通りに視線を向ける綾乃。康平も大通りに目を向け、綾乃の視線の先を見まわす。
「ごめん、俺にはわからないな、幽霊なんて」
困惑顔の康平に、綾乃は苦笑する。
「そんな話、とても信じられないでしょ?
幽霊の話をすると、いつも頭がおかしな人の妄想だって思われるし、霊感を利用してお金を騙し取ろうとしてるんじゃないかって怪しまれるばかり。だから男の人に警戒されて、いつも恋愛が長続きしなかったんです」
「そりゃたしかに幽霊が見えるなんて言われたらね。
でも、『あなたには悪霊が取り憑いてる!』とかなんとか言って変なものを売りつけるような人には見えないよ、綾乃ちゃんは」
「本当?」
綾乃の表情は春の日差しのように明るく輝く。康平なら信じてもいいかもしれない。そんな表情。
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