亡命者の極秘データ

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「C国の言葉で書かれていてよく分かりませんが、長々と文章が書かれています」 「よし、ネットで翻訳しろ」 「はい!」 俺は、亡命者から受け取ったメモリーカードに何らかのデータが入っているのを確認した後、逃げるように車を走らせた。アイツがC国の幹部であったという事は調べがついている。当然、極秘情報を握っているという話も本当だろう。だが確認もせず、1億円なんて大金は払えない。双方共に裏の人間なんだ。警察に事情を話せないとなると、金を払わずに逃げるのが最適だろう。まあ一応、アタッシェケースの中は束になっている100万円の1番上だけは本物で、あとは偽札にした。つまり、25万円分だけは本物だ。オフィスのレンタル費用も多少掛かってしまったが、1億円で交渉を吹っ掛けてきて、準備に掛かった額以下の情報だなんて事は無いだろう。 「どうだ?」 「いや、それが……」 「何やってんだ!まだ翻訳出来ていないのか?!」 俺は部下を叱責した。 今回の件だけの事で怒っているのではない。とにかくコイツは出来が悪い。ついこの間も、オフィスっぽい場所を押さえておけと言ったのに、ダラダラと時間を掛けた挙げ句、公民館のような場所をレンタルしてきやがった。世話になっている先輩の弟じゃなければ、とっくに切り捨てている。 「何か読んでも理解出来ないんです……」 俺は堪忍袋の緒が切れて、車を路肩に止めた後、「貸せっ!」と部下からパソコンを奪い取った。ザーッと一通り斜め読みをしたが、訳が分からない。これは、極秘データなんかではなく、関係の無い推理小説か何かだ。 「クソッ!騙された!」 「戻ってアイツに文句を言いに行きますか?」 「馬鹿か!もう俺らの事なんて信用する訳ないだろ!」 やられた。アイツは、俺達の事なんて当然信用していなかった訳だ。C国の言葉で書かれていれば直ぐには理解出来ないと考えて、適当な文章をコピペしてメモリーカードに保存していたという事だ。俺達が気付いてアイツに詰め寄れば、間違えただけだと苦しい言い訳をする予定だったんだろう。無駄に25万円を失ってしまった。こうなったら、ダメ元で他の部下に交渉させるしかない。 パァン……パァン……パァン…… ぐうう……あと少しで逃げ切れたのに……。 追っ手の撃った弾が背中に何発か的中しながら何メートルか走ったのだが、その後、暫くして私は力尽き、前のめりに倒れ、地面に這いつくばっている。動けていたという事は、心臓には当たってはいないのだろうが、もう長くはないだろう。薄れゆく意識の中、私は右ポケットに手を突っ込み、メモリーカードを確認した後、息絶えた。 ラストシーンを3度読み返した後、あたしは友人へ電話を掛ける。 「騙されたね~」 「でしょ?ビックリの結末じゃない?」 「うん、まさか主人公が既に死んでいたとはねぇ~」 先日、女子大の友人から、『極秘データ』という面白い小説をネットでコピーしたから読んで欲しいと言われ、軽い気持ちで読み始めた。既にネットでは見る事が出来なくなっているらしい。そこまでボリュームのある小説では無かったので、1週間ぐらいで読み切ろうと思っていたんだけど、核開発についての描写が実にリアルな上、吸い込まれるような展開に夢中となり、1日で読破してしまった。あたしは友人に質問する。 「これって主人公は、既にC国で暗殺されていたって事だよね?」 「そうそう。日本に亡命して核開発の極秘データを流出させる算段だったのに、逃げ切れなかったって事だと思う。つまり、妄想のお話って事」 「うんうん、面白かった」 「でも事実は違うらしいよ」 「事実?」 「実際、C国幹部の1人がある時期を境に表舞台から姿を消してるんだって。だから、彼が主人公のモデルだというのは、ほぼ確定で、更に、幾つかの核開発の極秘データも信憑性があるらしいから、主人公が作者の実話説が有力みたいよ」 「実話?!主人公死んじゃってるのに実話っておかしくない?」 「小説では主人公は殺された事になっているけど、本当は日本への亡命に成功したって噂だよ」 「そうなんだ……」
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