亡命者の極秘データ

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…… 私は電車を降り、駅を出て少し古い街並みをしばらく歩く。すると、急に真新しい高層ビル群が建ち並ぶのが目に入った。その割には辺りに人が歩いていない。近年、IT関連の企業がやたらと力を持っている。このオフィス街も、その類いなのだろう。 私は人目を気にしながらガラス張りの入り口に近付く。不審者に見られてしまうので出来るだけ自然に振る舞おうと努力はしているが、日本人ではないアジア人を探してしまう。亡命してから半年以上経つので、もう安心だとは思うが、クセが抜けきらない。 50m程先に黒スーツの2人組が頭を下げるのが目に入った。今日は彼らとの交渉でここに来た。私が書いた『極秘データ』という小説を1億円で買ってくれるという。だが、全く信用なんてしていない。彼らには偽のメモリーカードを渡すつもりだ。私が書いた小説みたいに騙される展開だけは避けなくてはならないから。 了
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