35人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
次の日、学校から帰ると一階には誰もいなかった。
洗面所で手を洗い、二階の自分の部屋へ行こうと階段を途中まで上がると、両親の部屋から争うような声が聞こえてきた。
「だって、あなただって……」
「そんなの理由にならないだろ……」
そんな言葉が聞こえたが、私が二階の廊下を軋ませた音で、二人の声は止んだ。
「美里? 帰ってきたの?」
母が部屋から出てきて、無理に明るい声を出した。
「おやつ用意するから、着替えたら下りてきなさい」
母はそう言うと、一階に降りて行った。
両親の部屋の横を通ると、父が畳に座っており、目の前にはA3サイズの白い紙が置かれていた。
「美里、おかえり」
父は慌てたように白い紙を畳み、何事もなかったように笑顔で言った。
その日の夕飯は家族皆が揃った。祖母と弟はいつも通りだったが、両親の間には気まずい空気が流れていて、そんな二人が気になる私も口数が少なくなっていた。
その夜もまた、ひそひそ鬼の声が聞こえた。
「とうとう亭主にバレたんだろう」
「ああ、そうだね。そりゃ、わかっちまうね」
「あれは離縁かね」
「そうだね。離縁しかないね」
「母親の方はもう次が見つかってるからね」
「まあ、計算高い女だからね」
最初のコメントを投稿しよう!