35人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
4. 暗鬼
夕方、両親が帰ってきて家族で夕飯を食べた。両親からは昨日の気まずい感じはなくなっていたが、どこか疲れているようだった。
「実は皆に話があるの」
食事が終わると、母が皆に急に宣言した。そして父に、「ほら、あなたから」と目配せする。とうとうきたかーー。
「実はーー」と父が口を開いた。
「いやだ、離婚なんてしないで」と、私が邪魔をする。
「はあ?」
母が驚いて声をあげる。
「知ってるよ。二人が離婚するの。ひそひそ鬼が話してたから」
さすがに、祖母や弟がいる前で、母の浮気でとは言えなかった。
「ひそひそ鬼?」と父が言う。
「っていうか、美里、何言ってるの?」と母も言う。
「だって、お母さん、最近帰りが遅いし、喧嘩してたじゃない」
「あ、あれは……」
母は黙ってしまった。それが証拠じゃない!
「絶対嫌だ。別れちゃだめ」
私が泣き出したので、弟はオロオロしている。
「美里」と父が優しい声で言った。「お父さんとお母さんは離婚なんてしないよ。そんな話は一度もしたことがない」
「えっ」
「今日、話をしたかったのはね、僕の仕事のことなんだ」
「仕事?」私は父を見る。
「うん。なかなか正社員の仕事が見つからなくて皆に心配かけてたけれど、実は今の介護の仕事にやりがいを感じてね、ちゃんと資格を取って正式に働こうと決めたんだ」
最初のコメントを投稿しよう!