4. 暗鬼

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 そのあと、私は祖母の部屋に呼ばれた。 「美里。ばあちゃんがちゃんと聞いてやれなくて悪かったな」と祖母が言った。そして、「ひそひそ鬼の話、してみろ」と言う。  そこで私は、押入れのひそひそ鬼のことを洗いざらい話した。 「美里、それは暗鬼(あんき)だ」  祖母は言った。 「暗鬼?」 「ああ。人を騙し、嘘を吹ぎ込み、人の心の不安掻き立でで疑心暗鬼にさせる鬼だ」 「でも、当たってることもあったよ」  探しものも、梢ちゃんのピアノの嘘も、当たっていた。 「嘘の中さ少しの真実紛れ込ませるんだ。そうすりゃ人は簡単さ信じでしまう」  そういえば、母の不倫の嘘には、高校の同級生という真実が紛れ込んでいた……。 「じゃあ、信じなくていいの?」  私は祖母に(すが)る思いで聞いた。 「ああ。十中八九、嘘だ。騙されるな」  祖母は最後に、暗鬼の言葉を信じるより、自分の目で確かめたことを信じろと言った。 「わかった。ありがとう、おばあちゃん」  祖母の言葉に、私はもうひそひそ鬼に騙されないと誓った。  その夜、布団に入っていると、またひそひそ鬼の声がした。 「今日も友達に振られて一人ぼっちだったね」 「そうだね。可哀想だね」 「嫌われてるんだね」 「そうだね。嫌われ者だね」  私は怒りでいっぱいになり、押入れにつかつかと歩み寄ると、ガラッと押入れを開けた。そしてーー。 「私は嫌われてない! 一人ぼっちでもない! お前達の言うことには騙されない! 出て行けーー!」と、大声で怒鳴った。  
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