35人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
そのあと、私は祖母の部屋に呼ばれた。
「美里。ばあちゃんがちゃんと聞いてやれなくて悪かったな」と祖母が言った。そして、「ひそひそ鬼の話、してみろ」と言う。
そこで私は、押入れのひそひそ鬼のことを洗いざらい話した。
「美里、それは暗鬼だ」
祖母は言った。
「暗鬼?」
「ああ。人を騙し、嘘を吹ぎ込み、人の心の不安掻き立でで疑心暗鬼にさせる鬼だ」
「でも、当たってることもあったよ」
探しものも、梢ちゃんのピアノの嘘も、当たっていた。
「嘘の中さ少しの真実紛れ込ませるんだ。そうすりゃ人は簡単さ信じでしまう」
そういえば、母の不倫の嘘には、高校の同級生という真実が紛れ込んでいた……。
「じゃあ、信じなくていいの?」
私は祖母に縋る思いで聞いた。
「ああ。十中八九、嘘だ。騙されるな」
祖母は最後に、暗鬼の言葉を信じるより、自分の目で確かめたことを信じろと言った。
「わかった。ありがとう、おばあちゃん」
祖母の言葉に、私はもうひそひそ鬼に騙されないと誓った。
その夜、布団に入っていると、またひそひそ鬼の声がした。
「今日も友達に振られて一人ぼっちだったね」
「そうだね。可哀想だね」
「嫌われてるんだね」
「そうだね。嫌われ者だね」
私は怒りでいっぱいになり、押入れにつかつかと歩み寄ると、ガラッと押入れを開けた。そしてーー。
「私は嫌われてない! 一人ぼっちでもない! お前達の言うことには騙されない! 出て行けーー!」と、大声で怒鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!