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声が大きかったから、両親が驚いて部屋にやって来た。
「美里、こんな夜遅くにどうしたの?」
「ひそひそ鬼を追い出した!」
母の問いに私は答えた。すごくすっきりした気持ちだった。
次の日、学校の帰り、生徒玄関の脇で梢ちゃんが島田さん達に囲まれていた。
「梢ちゃん、一緒に帰ろう!」
私がそう声をかけると、梢ちゃんは一瞬びっくりしたように目を見開いたけれど、コクンと肯いた。そして四人の間をすり抜けて、嬉し泣きのような顔で私の方にやって来た。
実は今日、朝からずっと梢ちゃんと島田さん達を観察してみた。すると、どうやら気の弱い梢ちゃんは、島田さん達にいいように使われている様子なのがわかった。
梢ちゃんが嫌がっているのもわかった。だって、昨日の本屋さんで私に見せた生き生きと楽しそうな表情が全然なかったから。
「美里ちゃん、あのね、前にね……」
校庭を歩きながら梢ちゃんは何か言おうとした。多分、ピアノって嘘をついた日の話かもしれない。でも、そんなのどうでもいいことだ。
「梢ちゃん、これから仲良くしてね」
私が梢ちゃんの言葉を遮って言うと、梢ちゃんは私の目をびっくりしたように見た。そしてあの可愛い笑顔で「うん!」と言った。
そのあと、押入れからひそひそ鬼の会話が聞こえてくることは二度となかった。
<了>
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