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節分の日、弟と豆まきし、家族で恵方巻きを食べた夜のことだった。
「人間は愚かだねえ」
「ほんと、愚かだねえ」
「豆なんかで、私ら鬼を追い出せると本当に信じているのかねえ」
「本当に。豆なんか、明日の朝、雀の餌になるだけなのにねえ」
「恵方巻きってなんだろね。昔はなかったよね」
「うん、なかったね」
「おかしいねえ」
「ああ、おかしいねえ」
それで、ああ、あの声は鬼のものなのかと納得し、『ひそひそ鬼』と命名した。鬼と知っても慣れてしまって、その存在を怖いとは思わなかった。
ひそひそ鬼は、かなり役に立った。
ある時はお父さんのへそくりの隠し場所を知り、それをお父さんに言い当てると、お母さんに黙っておく口止め料にずっと欲しかったゲームを買ってくれた。
弟の野球のグローブがなくなった時は、「裏の畑の脇の木の根本にある」と言っているのを聞いた。翌朝探しに行ったら、確かに木の根本に忘れていた。
ひそひそ鬼は特に『失せ物探し』に役立つことがわかった。夜寝る前に、「○○がない、困った、○○がない」と押入れの前で嘆いて寝る。すると真夜中、ひそひそ鬼が話し出す。
「馬鹿だねえ。××にあるのに気づかないんだねえ」
「ほんとにね。よく探せば見つかるだろうにねえ」
これはかなり役に立ち、祖母の老眼鏡や母の保険証を見つけ出した。私は家族の中で、探し物名人と呼ばれるようになっていた。
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