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そんなある晩、押し入れからまたひそひそ声が聞こえた。
「あの娘はバカ正直なんだね」
「ああ、そうだね。素直すぎるね」
「今日もあったね」
「ああ、あれだね」
「帰りに遊びに誘って断られていたね」
「そうそう。『今日はピアノのお稽古だから』ってね」
そこまで聞いて、自分と梢ちゃんのことだと気がついた。今日、梢ちゃんに放課後、一緒に国道沿いの商業施設に遊びに行かないかと誘ったら、ピアノだからと断られていた。
「あれは嘘なのにね」
「そうだよ。嘘だね。本当はクラスの仲良しを家に呼んでいたのにね。あの子は呼ばれていないけどね」
「まんまと騙されたね」
「可哀想にね」
「本当に、本当に」
そうだったのか……。
そりゃ、急に家を行き来するような間柄になれるとは思っていない。でも、それよりも嘘をつかれたことがショックだった……。
次の日、登校して自分の席に座っていると、梢ちゃんが教室に入って来た。
「おはよう、美里ちゃん」
梢ちゃんがにこにこ笑って声をかけてくれたが、「おはよう」と答える私の声は少し曇っていた。
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