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3. 母の疑惑
「まさか、あの母親がねえ」
「驚いたねえ。母親なのにねえ」
「あの歳でも、やっぱり女なんだねえ」
「パートの残業と言えば、遅くてもバレないしね」
「ああ、いやだねえ。」
「ほんと、いやだねえ」
ある晩、ひそひそ鬼がそんな話をしていた。その日、母はパートで急に残業になって、夜遅くに帰ってきた。母のことを言っているのかな……。『あの歳でも、やっぱり女なんだ』ってどういう意味?
翌朝、朝ご飯のあと、台所で洗い物をする母の横で手伝いながら、「お母さん、昨日残業だったんだよね?」と聞く。
母は一瞬手を止めるが、「そ、そうよ。どうして?」と答える。
「ううん。いつありがとう」と私が言うと、「変な美里。でもありがとう」と返した母の顔は作り笑いをしているように見えた。
その夜も、ひそひそ鬼の会話が聞こえた。
「やっぱり、相手は店長かい?」
「いやいや、違うだろ。納入業者に高校時代の同級生がいるらしいね」
「まあ、亭主が頼りないからねえ」
「ああ、まだ定職が見つからんとはね」
「情けないねえ」
「本当にねえ」
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