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それを聞いて、両親のことを話しているのだと確信を持った。母はスーパー勤めで店長とか納入業者とか合致するし、父は今も再就職先が見つからず、介護施設でパート勤務をしていた。
次の日も母は急な残業で、父は介護施設の夜勤があり、祖母と弟と三人で夕飯を食べた。
母のことが気になって、食後「ちょっと友達に本返してくる」と祖母に告げると自転車で母の勤務先のスーパーに向かった。
スーパーは午後八時閉店で、もうシャッターが下りていた。裏に回ると事務所の窓は真っ暗で人がいる気配はなく、従業員の自転車置き場に母の自転車はなかった。残業なんて嘘だった。
家に帰ってお風呂に入り居間のこたつでテレビを見ていると、母が帰ってきた。母はいつもはしない化粧をして、ほんのり頬が赤く染まっていた。
「あら、まだ起きてたのね。健ちゃんとおばあちゃんは?」
母の声はいつになく華やいだ感じだった。
「もう寝たよ」
「そう。美里もそろそろ寝なさい。お母さん、お風呂入ってくるわね」
「お母さん、ご飯は?」
「ああ、スーパーの残り物のお弁当食べてきたの」
「ふーん」
母は私の冷たい声にも気づかずに、部屋を出て行った。
自分の部屋へ引っ込もうとして階段に向かうと、浴室から母の鼻歌が聞こえてきた。
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