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 あの日も、青空だった。  校門の前で咲き乱れる桜、それを見た亜優は俺の腕を引っ張り言った。 「綺麗だね。ほら、桜の花びらが舞ってる!! あ、来た!!」  落ちてくる桜の花びらを見て、無邪気に笑い、それに夢中になる亜優は可愛らしかった。  いつも強気で、喧嘩ばかりするとは思えないほど。  でも何か、がした――  下校時刻になり、俺達も外に出ようとしたとき、黒い大型乗車がこちらに向かって猛スピードで走ってくるのが見えた。 『危ない』本能的にそう感じ取り、亜優の腕を引っ張ろうとした。だが、俺の手には亜優の腕はなく、亜優は自分の前にいる友達の元へ走った。  車が近づいてくる。このままだと、必ず校門へ突っ込む。 「亜優っ!!」  そう呼んだときにはもう、遅かった。  目の前で、亜優は車に轢かれた。自分の前にいた友達をかばって。  次に視界に入ったのは、地面に倒れた亜優と、驚きと恐怖が混じった表情をした友達だった。 「亜……優……」    近寄り、亜優を起こした。  小学生の頃、亜優のチャリの運転が危なくて、皆で事故になるって話していた記憶が蘇る。  そんなことが今、現実で起こってしまった。嘘であってほしかったことが。 「友稀……」  桜の木の下で、亜優は俺の名前を呼ぶ。いつもと変わらない、低く落ち着いた声で。 「驚いたでしょ……? 私も……驚いてる」  亜優の瞳から涙が溢れだす。俺もつられて、涙が流れ落ち、亜優の頬に堕ちた。 「どうして、どうして……」  こんなとき、新しい季節にこんなことが起こるんだ?  こんなも美しい桜の下で、こんな悲惨な光景だなんて……不釣り合いすぎる。 「だってさ、――友達を大事にする、そう言ったでしょ……? 私っ……」  そうだ、言っていた。 「人のことより、自分のことを気にしろって言ったじゃん。なのに、どうして――」 「あのさ、友稀」  もう言わないで欲しい。本当に、死ぬみたいだから―― 「最後にさ、私を抱きしめて?」  友稀が告白してくれた日みたいに、そう告げる亜優の首に俺はゆっくり腕を回した。  も、今日みたいな桜が咲いていた日だった。  まさか、亜優が受け入れてくれるなんて思ってなかった。  いいよ、なんて言ってくれるなんて思ってなかった。 「友稀に、祝福の桜雨(さくらあめ)を」  そう言った直後、亜優は病院へ搬送され、旅立った。  
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