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「咲希、来てくれてありがとう」
なんだかよそよそしい態度の圭太が、そこにいた。
よそよそしいのは私のせいだと分かってる。あんな風に突っぱねたんだもん。
「最後だから会いに来た」
私はちょっと不貞腐れて言った。
「最後なんて言うなよ」
あいつは苦笑いして答えた。
あいつの手には、ちょっと懐かしい缶入りのドロップス。
カラカラと音を立てて、私の前に突き出してきた。
「お前さ、これ好きだっただろ」
このドロップが好きと言うよりも、その当時のキャラクター缶が好きだっただけなのだが、圭太は私がそれをいつも持っていたことを覚えていた。
小学校の四年生くらいのことだろうか。
「いつもさ、ハッカ味が出る度に俺に食べさせるんだもんな、ずるいよな、お前」
「つまんないこと覚えてるのね」
「咲希のことだからね」
意味深な答えに、言葉が詰まる。
「遠距離……、あの子だったらムリだけど、咲希とだったらしてもいい」
圭太はまっすぐ前を見て言った。
「チョコのお礼。ホワイトデーだから、今日は」
缶をひっくり返すと、たった一個、透明のドロップが出てきた。
「最後の一個じゃん」
「ハッカじゃなくて良かっただろ」
いたずらっ子のように笑う。
私は最後のドロップを口に含んだ。
ちょっと酸っぱい。
懐かしい味……
あいつの顔が近づいて、レモン味の唇にそっと重なった。
「ファーストキスはレモン味にしたかったんだ」
「ば、バッカじゃないの!?マジで、ありえない!」
怒ったふりの私を、あいつは手のひらで転がすように笑いながらなだめて、もう一度キスをした。
恥ずかしくて、なんだか悔しくて。ちょっぴり不安と、それを上回る嬉しさを胸に、私はこの日を忘れないでおこうと思った。
口に広がるレモンの香りと、甘酸っぱいキスの味を。
「残り物には福があるって、言っただろ」
あいつは見透かしたように、歯を見せて笑った。
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