シトラスフレーバーKiss

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「よう、このクソ寒いのに、なんでこんな所にいるんだよ。帰らねえの? 暗くなるぞ」 「圭太……」 良かった。 まさか泣いてないよね、私。 「咲希(さき)? どしたー?」 ぼんやりしている私に、少しおどけた呼び掛けをして、圭太は私の顔を見た。そして手にしているチョコの箱に目を落とした。 「……告白し損ねた……とか?」 ドキッとした心は、じろりと睨んだ視線で誤魔化して、私はアーモンドチョコの箱を突き出した。 「失礼ね。友チョコの残りだから。食べる? あんたの好きなアーモンドチョコだけど」 箱の中で、最後の残り一粒がコロコロと転がっていた。 圭太は当たり前のように私の横に座る。 ――いいのかな? さっきの後輩が見てるかもしれないよ。 そんなことはお首にも出さず、私は「ホレ」と、箱を圭太の手に押し付けた。 「チェ〜、残り一個かよ」 たった一粒のアーモンドチョコを手のひらに乗せると、惜しげも無くぱくんと口に放り込む。 「なに、これ、めちゃウマ!」 「高級おチョコ様ですから」 コリコリとアーモンドの砕ける音がして、まだ飲み込む前に圭太が喋った。 「残り物には福があるって、この事だな」 失礼ね! 「残り物で悪かったですよーだ」 たった一粒のチョコレートを楽しんでいる圭太をその場に残し、私はさっさと帰ることにした。
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