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『ご卒業おめでとうございます』
筆で書かれた文字の周りには薄紙で作られた造花が風に揺れていた。
三月に入ったとはいえ、風は冷たい。
つい先日も雪がチラついていた。
卒業式の後は同じ部活の仲間とカラオケ。
まだ受験の終わっていないメンバーもいて、手放しでお祝いできないけれど、このメンバーで会うのは今日が最後だから。
そしてあいつ……圭太。
あいつは早々に推薦で関西の私立大学が決まっていた。
月末までに部屋を借りて荷物を運び込むのだと話していたっけ。
「咲希はこれからどうする?」
圭太が私の手を掴んだ。
ドキドキしながら振り返る。
だっていつもの圭太じゃないみたいだもん。
「三時に吹奏楽の連中と駅前のカラオケボックス」
「じゃなくてさ、進路……」
「専門だよ」
「じゃなくて」
圭太の言いたいことが分からない。わかるようで分からない。
私とこいつの仲も、今日でお終いなのだ。
こいつにはそれがわかっているのかいないのか。
「連絡先……」
「いらないよ!」
私は強く言った。
「圭太とは友達でいたいけど、でももう無理だもん」
「どういう意味だよ」
あいつの狼狽える顔を見て、胸がツクンと痛みを訴える。
でも友達なんてムリ!
もう私たちは子どもじゃないんだから。
絶対、こいつのことを意識してしまう。「好き」だとか、臆面もなく思ってしまう。
そんなこと、今更言えるはずないじゃん?
「俺はずっと咲希のこと」
友達でいられると思っていた?
どこまで幼いんだろう。
それとも……
「だって私、聞いたんだから」
「何を?」
「バレンタインの日。後輩に告られてたじゃん。その時、圭太、言ったじゃん、あのツインテールの彼女に」
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