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「好きです! 付き合ってくださいっ!」
風花が舞う寒空の下、私は耳をダンボにしたまま立ちすくんだ。
もう一歩早かったら、この角の向こうで繰り広げられている告白シーンに遭遇してしまうところだっただろう。
それはそれで良かったのか、それとも遭遇しなくて正解だったのか。
とりあえずショックで動けなくなった頭と足をなんとか動かし、この場を去る判断を下し、回れ右をする。
手にはちょっとお高いアーモンドチョコ。
いつものお菓子売り場のではなく、お小遣いから奮発して買ったブランドチョコレート。
あいつに渡すのに、かしこまった包装は要らないと、リボンをやめておいて正解だった。
部活終わりのあいつを狙っていたのは私だけではなかったみたいで……
「あの子、何組の子だっけ? 」
見覚えのない愛らしい髪型。もしかしたら後輩かもしれないなぁ。
あいつ、同級生の女子にはウケないけど、下級生にはモテてるみたいだし。
中庭まで出て、誰もいないことを確認すると、メタセコイアの下に置かれたボロボロのベンチに腰を落とした。
「はぁ〜」
情けないため息を吐くと、渡しそびれたチョコレートの包みを開けた。
友チョコは手作りのマシュマロチョコ。動画で見つけてすごく可愛かったから、たくさん作って仲の良い友達(女子!)に配って回った。
本命チョコ……ではないな。うん。
腐れ縁のあいつにやるだけだもん。
ただ、小、中、高とずーっと当たり前みたいにつるんで来たあいつの進学先が、随分遠くの大学だと知ったから。だから、最後のバレンタインだから。
ギリギリ義理の友チョコだよ。
言い訳しながら買った高級なアーモンドチョコ。あいつの好みくらい知ってるからさ。
ちょっとほろ苦、ブラックチョコが好き。アーモンドはクラッシュよりも一個まるっと入ってるタイプ。
――コリコリ……ボリボリ……
うまっ!
さすがブランド品だわ。
……絶対喜ぶと思ったんだけどなあ。
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