桜と彼が大好きでした。

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第十四章 桜 「早く来てよー!いい場所埋まっちゃうよー!」 カリンが先に走って、大きく手を振っている。 私たちの頭の上には、満開の綺麗な桜が咲き誇っていた。 あの後、私は半強制的に引越しさせられ、 3人で、約2年間を過ごした。 私とカリンは、無事に同じ高校に入り、 ツキさんは高校には入らず(入る必要もないので)就職活動を開始した。 『ちょっとでも、2人にいい思いして欲しいから!』 だそうだ。 正直なことを言うと、貯金が足りなくなってきたのだろう。 私たちもバイトをしながら、大きなトラブルもなく 平和な毎日を送っていた。 一つ、トラブルといえば、私の叔母がツキさんの家に押しかけてきたことだ。 その辺は、ツキさんの頭脳を使って社会的に黙らせたらしい。 あんまり詳しいことは知らないけど、少し気の毒かもしれない。 もちろん、良いこともあった! 最近、カリンの癇癪が少なくなってきたのだ。 『カリンは大人っぽくなったし、サキは年相応の雰囲気になったし、  みんな成長したな…!ほんまに嬉しいわ!』 ツキさんは、そう言って私たちの頭を、ポンと撫でた。 ちなみに、ツキさんの髪の色は今は黒色だ。 前は、ストレスのせいで白くなっていたらしい。 「どっちも似合ってるから!」 とカリンは満足気だった。 今日はみんなでお花見。 フワッとした暖かい春の空気に包まれて、 レジャーシートの上でお弁当を食べる。 『たまにはこんなのもいいやろ!』 と、ツキさんが手作りのクッキーを作ってくれた。 本当にこの人はなんでもできる。 良さそうな場所を見つけたのか、 カリンがレジャーシートを広げ始めた。 「ここでいいんか?」 「うん!ここがいい!」 「カリンはここに思い入れでもあるの?」 「フフン。あのねー!ツキさんと出会った場所なの!」 カリンは嬉しそうに言った。 「あー、そーだったっけなぁー」 ツキさんは、なんでもなさそうに言ったけど、 顔を赤くしていたので、ちゃんと覚えていたのだろう。 レジャーシートの上に座り、クッキーを頬張る。 「え、意外と美味しいじゃん。」 「サキの毒舌は治ってないなあー。意外と、は余計や!」 「こっちも食べていい?」 「私もこれもらうー!」 そんな調子で、クッキーとお弁当は一瞬でみんなの胃の中だ。 「じゃあ、行くか。」 そう。この近くには、リクなお墓がある。 落ちていた桜の花びらを一枚拾い、 少し歩いて、お墓の方に向かった。 あらかじめ買っておいたお花を供えて、 3人で手を合わせた。 先ほど拾った花びらを、そっと上にのせた。 すると、それに応えるかのように、サァッ、っと強めの風が吹いた。 近くにあった桜の木が揺れて、花びらが散る。 「桜吹雪だあ…」 カリンは、二年前には見せなかった大人っぽい表情で、桜を見ていた。 「綺麗やな…。もう桜のシーズンも終わりかなぁ。」 ツキさんが、少し悲しげな瞳をみせた。 「この春の空気はさ、リクに撫でられたみたいな感覚を思い出す。  だから、同時に寂しさも感じる。  でも、今はこう思う。リクとできなかった、たくさんの楽しかったことは、  3人でしていけばいいかな、なーんて。」 「いいこと言うやん、サキ。」 「サキは今も好き?桜とか、リクとか!」 私はちょっとだけ考えて、笑顔でこう答えた。 「桜もリクも、だーい好き!」                                        終
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