桜と彼が大好きでした。

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第十二章 救 「お邪魔しまーす。  持ってきたやつは冷蔵庫入れとくな。」 ツキはそう言って1人で台所の方に向かった。 私は銃を下ろし、椅子に座った。 「よいしょ、っと。」 ツキが当然のように、机を挟んで私の正面に座った。 「…聞きたいことあるんちゃうん?」 自分で持ってきたのであろう缶ジュースを プシュッと開けて一口飲んだ。 オレンジ色の丸いキャラクターが、間抜けな顔で私を見つめる。 「…私は…あなたのこと…嫌いです…多分…」 「前も聞いたから知っとる。」 「嫌いと言った記憶はないですが、」 「まあ似たようなこと言うてたやん?  でもそれが普通やねん。だから話せないんよ。  私がカリンに嫌われたくない…  カリンに話したら、カリンは絶対私を嫌うやろ…?  カリンを1人にしたくない。って気持ちと同時に、  私が嫌われたくない…!ごめんな…ほんまに…。」 この人は、カリンのことを大切に思ってる。 同時に、自分もカリンも、1人になったら死んでしまう、 死にたくなることをわかっている。 大雑把に見えて、すごく繊細で傷つきやすい人なのだろう。 自分と似た境遇にあった少女カリンを拾って、救われたの? お互いのためになったの? でも…それでも… 「その絆は…リクが犠牲になってできたものでしょ…!?」 「!」 ツキがビクッと反応した。 「あなたが助かったのはリクのおかげでしょ!?  でも、リクの死の真実は隠したままでいいの!?  カリンに話さずにいて、あなたはなんとも思わないの!?」 私は、銃口をツキに向けた。 「…思うよ…嫌だよ…嫌いだよ…!」 ツキが顔を上げた。 白い肌には、涙が伝っていた。 「大事なことを話せない自分が嫌いだ!  カリンが大切なのに、いつまでも嘘をついたままの  私が嫌だ…!  でも…でも…!私にはカリンが必要なんだ…。  カリンがいなかったら、私は今頃生きていなかった…。」 ツキが銃を見つめる。 「だから死んでもいい。悔いはない。いや、あるけどもういい。  カリンは悲しむかもしれんけど、ほんとはそうなる運命やってんもん。  後片付けは綺麗にしーな!死体の私は何も喋らん。綺麗にしたら大丈夫。  …本当はサキのことも助けてあげたかった。これ本心やで。  今日ここに来て相談しようと思っててん。  私の家に一緒に住むか?って。」 「私と…一緒に…?」 「そうや。サキは嫌って言うかなって思ってた。  でも、助けようと思えば助けることができるっていうのを  わかってほしかってん。  同い年でも、私は大きな味方になれるから…。  ごめんな、変なことばっか言って。  目的は、罪滅ぼしだけじゃない。  ただ、救いたいって気持ちもあった。」 「救いたい…」 「それだけ言いたかったんや。もういいよ!  おしまい!じゃあな!」 ツキが両手を大きくあげて、ニマッと笑った。 「わ、私は…!」 銃を持つ手が震える。 「…やっぱり違う…。」 私は銃口を自分の頭に押しつけた。 「私は…カリンに必要なのはあなただと思います…。  だから…あなたを殺すのはカリンのためにならない…。  これは間違いです…私が間違ってる。  ごめんなさい。殺そうとして。私は間違っていました。  そして、ありがとうございます。私なんかを助けようとしてくれて。  さようなら。ツキさん。」 「お、おい、待てや!あかん!ちょっ!」 ツキさんが机に手をバンとおいて、勢いよく椅子から立ち上がった。 缶ジュースが傾いてオレンジ色の液体が溢れる様子はスローモーションだ。 ツキさんは、私の銃に手を伸ばし、奪い取ろうとする。 でも間に合わない。 『さようなら、カリン。』 私は、心の中でそう呟いて、指に力を込めた。
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