桜と彼が大好きでした。

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第二章 蕾 ジリリリリリリリ 目覚まし時計が激しく鳴る。 「…うるさいなぁ…。」 私は布団を深く被る。 聞こえる音が少なくなっただけで、うるさいのに変わりはない。 仕方なく、ベッドから腕を伸ばし手探りで時計を探す。 「あっ、」 ガシャンと音がする。 目覚ましのベルは止まったようだ。 だが、時計がベッドから落ちてしまった。 「ハァ…」 ベッドからおりて、時計に手を伸ばす。 「嘘でしょ…?」 そこで初めて気づく。 寝坊したということに。 制服で身を包み、桜の木の下を歩く。 終業式はもう終わっただろうか。間に合ったらいいけど。 そんな気持ちを胸に抱きながら、少しだけ早足で歩く。 視線をうえにむけると、大きく膨らんだ蕾があった。 もうすぐ桜が咲き始めるだろう。 また春が来る、と胃が痛くなる。 昔は嫌いじゃなかった。 きれいでたくさんの花、柔らかい空気、優しい風の匂い、暖かい日差し。 心が穏やかになるような感覚を感じていた。 でも、それも昔の話。 「サキ?寝坊したの?」 後ろから、明るく聞き覚えのある声が聞こえる。 「カリンも?」 「私はいつも通りだよ。学校なんて嫌いだもん。」 「カリンらしいや。」 私達は、2人並んで歩き出した。 しばらく無言の時間が続く。 お互いに、特定の友達がいなかった私達は、 3学期の初めあたりで、やっと仲良くなった。 カリンは、心の病気。記憶を忘れることが難しいらしく、 嫌なこともずっと覚えてられるから、よく病んでしまうらしい。 不登校気味で、たまに別室登校だったけど、 私と話すようになってから、教室に来る頻度が増えた気がする。 自意識過剰かな。 「…サキ…?」 「何?」 「いや〜私がいうのも何だけどさ、急がないの?」 「…今日終業式でしょ?急ぐ必要ないでしょ。」 「そうか…?そんなものなのか…?」 カリンは、納得してない様子で、空を見上げた。 「あ、あそこ!桜咲いてる!」 私も上を見上げた。 唯一、一つだけ、ポツンと咲いた花があった。 「…寂しそう。可哀想に。」 思わず本音が出る。 「サキにはそう見えたの?」 カリンが不思議そうに私の方を見た。 「カリンにはどう見えたの?」 私がそう聞くと、 「『自分が一番に生まれてきて嬉しいな』って言ってるような気がした!」 と、元気よく飛び跳ねるように答えた。 カリン、でもそれって、一番に死ぬってことじゃない? そんなことを言いそうになって、グッと口を噤む。 私はきっと、ひねくれている。 以前、彼に言われたように。
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