桜と彼が大好きでした。

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第三章 心 『何であんたが…!』 今日もまた、物を投げつけられる。 『お母さん!私が殺したわけじゃない!殺してない!』 『違う違う違う!私が言いたいのはそういうことじゃないの!  わかる?カリン!どうしてあなたみたいな手のかかる子が生き残って  リクみたいないい子が死ななければいけないのかって聞いてるの!』 『お母さん…。』 『ああ、リク…。何で死んでしまったの…?帰ってきて…!』 お母さんは、仏壇にある写真を手に取り、胸に抱いた。 『リク…リク…』 呪文のようにつぶやく。 汚くて暗い家の中で、仏壇だけがきれいに片付けられ、 ろうそくの火が揺れていた。 奇妙で、綺麗で、涙が出た。 私にとって、お母さんは怪物だった。 リクが死んでから、もっとヤバくなった。 リクは、私の双子のお兄ちゃんだった。 とてもいいお兄ちゃんだった。 でも、不運な事故で亡くなった。 リクはもう、この世にいない。 『リクに会いたい…。』 暗く狭い部屋の布団の中で、小さくつぶやく。 この願いが叶わないことぐらいわかっている。 でも時々思う。 リクが、お母さんを身代わりにしてこっちに戻ってきてくれないかな? リクとお母さん交代してくれないかな? こんなことを思う私は、大嫌いなお母さんと大して変わらない。 死にたい。消えたい。自分死んじゃえ。 今日もそんなことを思いながら、手首にカッターを押し当てる。 赤い筋が浮き出て、真っ赤な液体が腕を伝う。 何回これを繰り返しただろうか。 床は血で真っ赤になる。茶色く固まったものもあった。 泣きたくなる。 リクが大切に思ってくれていたこの体を、 私は自分で傷つけてしまっている。 わからない。何もかもわからない。 お父さんがいなくなる前に言っていたことも意味がわからない。 『カリン。今から言うことを忘れるな。』 『どうしたの?お父さん?珍しく真剣になっちゃって?』 『いいから、な?わかったか?』 『私は忘れたくても、忘れられないから大丈夫!で、何?』 『リクは桜に殺された。』 『え…?お父さん?それってどういう…!?』 『いいか?お母さんには絶対言うな。誰にも言うな。  でも覚えとけ。俺とカリンの約束だ。』 『お父さん…?』 その頃、家では、リクの話はタブーになっていた。暗黙の了解というやつだ。 私はわからなかった。どうすればいいのか。 次の日、朝起きるとお父さんはいなくなっていた。 お父さんの部屋のものは、ほとんどなく、 父親という存在自体がなかったかのようになっていた。 お母さんは、その日からもっとおかしくなった。
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