桜と彼が大好きでした。

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第五章 月 「あの、この辺りで起きた殺人事件のこと知りませんか?」 「男の子が死んだ事件のこと知ってますか?」 「知ってたら詳しく教えてもらいたいのですが…。」 何人に声をかけただろう。 リクの事件について知りたかったのと、 母親のいる家にいたくなかったのと、で 夜だけど1人で家を出てきた。 酔っ払って寝てるおじさんにも、片っ端から声をかける。 そんな長い作業に疲れてきた時のことだった。 「どうしたん?お嬢ちゃん。こんな暗いとこで。」 白髪ロングの女性に喋りかけられた。関西弁だ。 結構若そうだが、片手にお酒を持っていた。 でも、今日会った中で、一番まともに話せそうな人だった。 月明かりに照らされたその女性は、とても綺麗だった。 「あの!この辺りで起きた殺人事件について、知ってることありますか!」 「殺人?え、まあ、知っとるけど、どしたん?何時やと思っとるん?  あったかくなってきたけど、夜はまだ冷えるやろ。  もうちょい厚着してこなあかんわ。」 「…お話聞かせてもらえないですか…?」 「今日はもう帰り!明日もここおるから、  もうちょいあったかい格好して来いな!」 お姉さんが元気よく言った。 私は俯いた。帰りたくなかった。あの母親がいる家に。 「…帰る家がないんやったら、私のとこ泊めたろか?」 お姉さんが何かを察したのか、落ち着いた声でそう言った。 私の返事はもちろん、 「お願いします!」 だった。 「自己紹介してなかったな。  私は、ツキや。名前の由来は満月の夜に生まれたからやで。  別に、脅したり殺したりせんから、ゆっくりしーよ。」 玄関で靴を脱ぎながらツキさんはそう言った。 「…ありがとうございます。  私は、カリンです。精神的な病気を患っていて、  ご迷惑をおかけするかもしれません。よろしくお願いします。」 私は丁寧に頭を下げる。 「何才?」 「…14才です。」 「まじかー、」 ツキさんは、小声でリアクションをとった。 「親はどしたん?」 「お父さんはいなくなって、お母さんは…その…暴力といいますか…。」 「あー。体にある傷はそれか。あかんなあ。」 「大丈夫なんですけど…目立ちますかね?」 「そやな。私が隠したるわ。メイクで。  美容系の仕事してんねん。そこは信用していいで!」 「そうなんですか…。」 部屋の中に入ると、思ってたよりも綺麗で、 小さな机の上には、お化粧で使うような細かい道具が並べられていた。 その一つに、ネイルがあった。 「…ネイルが気になるんか?」 ツキさんがネイルを手に取った。 「あ、昔、お母さんがまだ優しかった頃、  貧乏だけど唯一買ってもらったのが子供用のネイルだったんです。」 昔の思い出が頭に浮かぶ。 優しかったお母さん、抱っこしてくれるお父さん。 そして、色々なことを教えてくれたリク。 「ええ思い出やなあ。カリンの指にやったろか?」 「え、何を…?」 「そりゃもちろん、これや!キラキラにしたる!」 ツキさんは、自信満々な、子供のような笑顔で私の手を取った。
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