桜と彼が大好きでした。

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第六章 輝 「…!うわあ…!?」 「どうや!すごいやろ!」 ツキさんが私の手を放した。 私の爪は、キラキラと輝いている。 宝石のようなものが乗っていたり、 色がグラデーションになっていたりしているのだ。 「今度出かける時はメイクしたるわ。今日はもう遅いから昼まで寝よ。  私も明日用事ないから一緒に寝てええか?」 そう言いながら布団を敷いていた。 すごくテキパキ動く人だ。 「はい。全然大丈夫です。」 その時、我慢できなかったくしゃみが思わず出てしまった。 「ハックシュン!!」 「ん?寒いか?暖房つけるか。」 「あ、いえ。このぐらい大丈夫です。すみません。」 ツキさんの体がピクッと反応し、動きが止まった。 「…なあ。」 「はい?」 「カリンさ、さっきからずっと『大丈夫』って言ってばっかりやで。」 かなり動揺したと思う。 「え、いや、そんなことは」 「ある。」 ツキさんは強い口調だった。 「あのな、カリン。大丈夫じゃないときはな、人に頼っていいんやで。  カリンが無理する必要はないねん。カリンはもういっぱい背負っとる。  私な、もう、見とって感じるわ。しんどいんやろなって。  私はな、頼られること好きやで。誰かに必要とされるの好きやで。  だからな、カリン。私を頼り。お願いや。  寂しいんやろ?どうすればいいかんからんのやろ?  大好きな人が死んだらな、誰でもそうや。  カリンは行動したやん。  こんな夜に外に出て、いっぱいの人に話しかけてたやん。」 私の目からは涙が溢れていた。 止められなかった。 「私はな、無理やったで。死のうと思ってしもてん。  大好きな家族が死んでな、私は1人取り残されてんねん。  寂しいわ。苦しいわ。毎晩、毎晩泣きたくなってまうねん。」 私は言葉が出なかった。何も言えなかった。 いつのまにか、ツキさんも泣いていた。 「カリン。私な、カリンと同い年やで。  外国で飛び級して、色んな学校卒業したけどな。  実はな、今日、死のうと思って外に出たんよ。  人生で一回飲みたかったお酒飲んでな、  飛び降りとかなんか適当に死のうと思って外出したんよ。  カリンを一目見た時な、この子すごいわって感動してん。  カリンが、話聞かせてって言うから、私が生きる理由ができたんよ。  カリンはな、私の命の恩人やねん。」 ツキさんが、私に抱きついてきた。 長い髪から、フワッと甘いシャンプーの香りがする。 近くで存在を感じていると、本当に私と同い年なんだなと感じられた。 細い腰、ツヤツヤの長い髪、若い声、しわひとつない肌。 全てが潤っていて、輝いていた。 それでも、ツキさんが大人っぽく見えたのは、 多分、目が死んでいたから。 光が入っていない、真っ暗な目だった。 それでも、その眼に私がうつることで、 もう一度輝くなら、私は喜んでツキさんと暮らすだろう。 気づいた時には布団の上で、お互いに安らかな寝息を立てていた。
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