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私はできる限り優しい声色で聞いた。
彼は何度も力なく頷いた。
「誰からもチヤホヤされていた俺を……お母さんは息子として接してくれた。みんなが求める俺を演じてるときも、ちゃんと叱ってくれたし褒めてもくれた……本当に嬉しかったんだ。お母さんさえいれば、俺は俺でいられると思ってた。でも死んだ……こんな才能いらなかった。お母さんに会いたい……どうして俺を置いていったんだよ」
「いいのよ泣いて……あんたも頑張ってきたのね」
「もう自分がなんだか分からない。やけになって、全部笑い飛ばしても自分は守れなかった……アコさんに出会わなければよかった。あなたと話してるとお母さんを思い出す。もういないのに……だけど今はっきり分かった。俺はあなたを求めていたんじゃない。お母さんを求めていたんだ……でももう無理だよ……このまま死にたいよ」
「ダメよ。それはダメ……あんたは死なせない。もう死なせないから」
「あなたは……違う。俺はどうしたいんだ?」
「ゆっくり考えましょう。もう逃げなくていい。これから一緒に考えましょう」
「愛してたのに……」
「ええ。そうよね。今は眠りなさい。ずっとこうしててあげるから」
私の腕の中で犬嶋は眠った。
本当に子供のように穏やかに……
私は眠らない。
彼が起きるまで、ずっと起きているつもりだ。
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