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「悪かったな。昨日は」
勤務時間が終わったので私が店を出ると、犬嶋はいた。
店の前でうんこ座りをして酒を飲んでいるようだ。
「営業妨害よ」
「別にここに客がくるわけじゃないだろう。しかし店から出てくるとは、電話はかかってこなかったのかい?」
「ええ。今日はついてなかった。あんた疫病神じゃないの?」
「神様が言ってるのさ。浮気はするなって」
「何様のつもりよあんた」
私は噴き出して、その流れで彼の缶ビールをひったくった。
「これは20歳になるまで没収」
「酒と女は俺の栄養だぜ?餓死しちまうよ」
私は奪ったビールを飲み干して、近くのゴミ箱に缶を捨てる。
何も言わずに私たちは並んで歩き出す。
「今日はどうする?」
「学校行ったの?今日平日でしょ?」
「夏休みだからな。3週間後に」
「ちゃんと学校に行きなさい。先生に連絡するわよ?」
「どういう立場で電話するんだよ。ふふ」
「お腹減ったわ、どこかに食べに行かない?」
「ああ。ATMでたんまり金をおろしてきた」
「割り勘よ。私のおごりでもいいけど」
「へへ。たまにはお姉さんに奢られるのも初心にかえれていいかもしれねぇな」
「へぇ甘え上手だったんだあんた」
「当たり前だろ。男としてのスキルは一通りある」
「スキルって女を抱くためのスキルでしょ?」
「ああ。男の人生において一番な大事な技術だ」
「ふん。言っとくけどファミレスよ。私余裕あるわけじゃないから」
「ああ。ちょうどレンジでチンしただけのピザが食べたくなってきたところだ」
近くのファミレスに入店した私たちは、店員に席に通されたので座った。
適当に注文をつたえて、料理がやってくるのを待つ。
「アコさん、あんた今日は綺麗な体なのかい?」
「ええ。マジで客がこなかったわ」
「フリーもか?」
「何人か電話してきたみたいだけど、若い子が取っちゃった」
「そろそろ引き際ってやつじゃないの?」
あまりにも真剣な顔して言う犬嶋がおかしくて私は笑ってしまった。
「プロポーズのつもり?」
「なんだよ……飛躍しすぎだ」
「でもそういう意図があったんじゃないの?それとも仕事紹介してくれる?」
「そんな無礼な真似しないよ。あんたにも叱られたし……でもやめたいなら協力する。あんたから言ってくれたらな」
「優しいじゃないの。でもまぁ……まだ続けたいわ。無学な私が高給取りになれるんだから」
「……コンプレックスがあるのか?」
「はぁ?」
「その……学歴がないから卑下してるのか?」
「失礼な小僧ね。まったく」
「教えてやろうか?」
「はぁ?」
「俺は今からでも教員免許をとれるほど勉学を修めてるからな。なんでも教えられる……よかったら」
「ふふふ……あははは!!」
私は大声で笑った。
ほかの客の目も気にせずに……
「お、おい。ビールの酔いが今さら回ってきたのか?」
「なんでそんな顔してんのあんた……ふふ。かわいいわね」
「茶化すなよ、俺だって真剣になるときはある」
「気持ちは嬉しいわ。人生どんづまったらあんたの部屋に寄生しよっと」
「歓迎するぜ。大丈夫だ、ほかの女の子とやるときは部屋に連れ込まないから」
「あら、気にしないで。男女の喘ぎには慣れてるから」
「図太いな。へへ」
店員が頼んだ料理を運んできた。
パクパクと大して美味しくもないごはんを食べていると、犬嶋は咀嚼しながら私の目をじっと見つめてきた。
「『あんた美人だな』って言わないでね。聞き飽きたからそろそろ胃もたれしてくる」
「もう褒めないよ、たぶんな」
「でなに?口にごはん粒でもついてる?」
「あざとすぎるな。男たちのちんこが勃っちまう。そうじゃなくて提案があるんだ」
「うん?」
「デートしないか?」
「いいわよ。いつ?」
「おい。ガードが緩いぞ、俺は心配だ」
「ふふふ……でいつなの?」
「明日はどうだ?」
「いいけど学校は?」
「ちゃんと行くよ。行かないとどうせ怒るんだろ?」
「叱るの。学校終わりならいいわ」
「ああ分かってる。じゃあ約束だぞ?」
「ええ。約束よ」
「やっぱり……美人だよなあんた」
しみじみと言う犬嶋を笑って、私たちは健全な夜を楽しんだ。
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