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美しい夜空だった。
煌めく光と屋台の熱気と多くの人たちの笑い声に包まれて、私は立っている。
ノゾミさんたちと待ち合わせしている神社で待っていると、4人の男たちが姿を現した。
「遅いわよ」
「悪いな。男は身支度に時間がかかるんだ」
悪びれもせずに犬嶋は言った。
彼の後ろに王森と野田、そして浴衣を着た泉もいた。
「仁くん!」
「渚さん!」
2人は顔を合わせた瞬間深い抱擁をした。
これには私だけでなく、犬嶋までもが驚いている。
「なんだか久しぶりだね!」
「おう!渚さんに会えて嬉しいよ!」
「じゃあいこっか!」
「俺腹減ってんだよなぁ、なんか奢ってくれよ」
「いいよぉ。好きなだけ食べさせてあげる!」
幸せそうな顔をした2人は私たちに手を振って、さっさとどこかに行ってしまった。
ノゾミさんはクスクスと笑っている。
「お熱いわね。あの2人」
「王森のやつ。俺よりヒモの才能があるかもしれねぇな」
「あの子嫌らしさがないからね。けっこう女受けいいんじゃない?」
「パートナーと解散する流れっすか?じゃあ私たちも行くっすね。いこっか野田くん」
「ああ。その浴衣似合ってるぜ」
「いいよお世辞は。もう何回もヤってんだから」
「そういうのじゃないだろうよ。本当に似合うと思ったから言ったんだ」
「ありがと。じゃあ行ってきますね」
「ええ。行ってらっしゃい」
私と犬嶋はレナたちに手を振った。
あの子ったら、野田には飽きたとか言ってたくせに楽しそうじゃない。
繋がりはセックスだけじゃないってことね。
「それでどうするの?私たちも解散?」
ノゾミさんが私に聞いた。
しかし困ったことになった。
私は犬嶋と2人きりでいたいんだけど、ノゾミさんと泉はどうしようかしら?
「そんなに困った顔しないで。残り者同士仲良くするから」
ノゾミさんは泉の肩に手を置いた。
彼はやんわりとそれを払いのける。
「馴れ馴れしいですね」
「ふふ。お気に召さなかった?」
「ええ」
「あなた男の子好きでしょ?」
「そうですよ、犬嶋くんが好きなんです」
わざとらしく泉は私を睨みつけた。
一気に情報が流れ込んできて、私は反応に困る。
「えっと……なんかごめん。犬嶋……あんたキスくらいしてあげなさいよ」
私が横腹を小突くと、犬嶋はにやついた。
「そりゃ俺は構わないけどよ」
「お気遣いありがとうございます。でも僕は恋人としかそういうことはしたくないので」
「そ、そう……硬派なのね」
「俺もモテモテだな。知ってたけど」
「私……あの子に恨まれてる?」
「あなたと犬嶋くんが破局することを心から願っています」
犬嶋は高らかに笑った。
私は曖昧な笑みを浮かべることしかできない。
「じゃあ行ってきて。いいわよね泉くん?」
「ええ。今日は2人きりで楽しみましょうか。似た者同士」
「わお……ふふ」
「今の仕事変えた方がいいんじゃないですか?」
「私はどっちもいけるの。心配してくれてありがとね」
お淑やかに笑うノゾミさんと泉を見ていると、手が握られた。
「行こうぜアコさん」
「ええ……いいわよ」
私はノゾミさんに頭を下げて、彼と一緒に神社を出た。
人混みに紛れて私たちは歩く。
「いい匂いだな」
「なんか食うかい?」
「そうね。わたがし食べたい」
「気が合うな。俺もだ」
「……馬鹿にしないんだ?」
「え?わたがしはうまいだろ」
「ええ……あの子が好きでね。分け合って食べた」
「今日は俺と分け合おう」
「優しいのね」
犬嶋は屋台でわたがしを1つ買った。
ひと口食べて、私の口元に差し出す。
私は遠慮なく大口で食べた。
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