イケメンな彼女

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「あれハチだったのか!?」  思わず叫ぶような声が出てしまった。俺の反応に正解とばかりにハチは頷いた。  あの日、試験開始よりも早く来すぎた俺は、緊張をほぐすために外の空気を吸いに中庭に出た。そこで俺は同じように早く来ていた受験生を見つけたのだが、そいつは明らかに具合悪そうにベンチにもたれていたのだ。  この話はハチにもクラスでもしていなかったから、本人で間違いないのだろうが、それにしても。 「今と雰囲気が全然違くないか!?」 「そんなにかな? あの時と違うのは制服と髪の長さくらいだと思うけど」  俺の叫びにハチは首を傾げ前髪をいじっている。儚げな様子だったあの子と今のハチでは全く正反対だ。言われた今でも結びつかない。 「……大人しい感じに見えたんだよ」 「そりゃあ、具合が悪かったからね。慣れない受験勉強の疲れと緊張が入試の日にピークに来ちゃって。それで外で休んでたらアキが声かけてくれたんだよ」 「そりゃ具合悪そうなヤツ見かければ、誰だってそうするだろ」  「そうかもしれないけどさ。大丈夫って言ったのに、心配して飲み物まで買ってきてくれる人はそんなにいないと思う。温かいココアすごく嬉しかった。おかげで試験も頑張れたんだよ」  はにかむように笑うので、なんだかむず痒く「そうか」とつっけんどんな返事になってしまった。 「だから一緒の学校になれたら、最初に声をかけようって思ってたんだ。同じクラスで席も近くてすごく嬉しかった。なのにアキってば全然覚えてないんだもん」  ハチは拗ねたように口を尖らせて言った。 「ちょっとした意趣返しのつもりだったんだ。女だってことはすぐにバレると思ったのに、アキが鈍すぎるんだもん。意地になってこっちからは教えないって思ったら、引っ込みつかなくなっちゃって」 「それについては、本当に悪かった」  それについては全面的に俺が悪いので深々と頭を下げていると、ブレザーの裾をハチが弱弱しく掴んだ。 「もう無視するのはやめてね。すっごく寂しかったんだから」 「しない」 「ほんと? 絶対だよ!」  俺が頷くと顔を輝かせたハチが、いつものように飛びついて来ようとしたので慌てて押し返す。 「……なんで邪魔するの」 「お前、女なんだからもっと慎みをもて!」 「え~?」  不満げなハチになんで俺がこんなことを言わなきゃならないんだという気持ちになる。今までの距離感の方がおかしかったんだ。不覚にも赤くなってしまった顔を背ける。  そんな俺の反応を見て、ハチは意外そうにきょとりと目を瞬かせた。 「全然脈なしかと思ってたけど、その反応なら少しは期待してもいいかな?」 「なにがだ」  不穏な気配を感じ俺が身構えるとハチは目を細めゆっくり口を開く。 「これからは本気で行くから、よろしくってこと」  不敵な笑みで宣戦布告をするハチ。何をする気かは分からないが、俺は全く勝てる気がしなかった。  そして思う。やっぱりコイツはイケメンだと。
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