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さっきちょっとでも格好いいなんて、どうして思ったんだろう。
もう十二分に傷ついているのに、そんな様子に気付いているのかいないのか、その人は追い討ちを掛けるかのように、再度口を開いた。
「父親に頼って、今度は幼馴染?
それで跡取りって気楽でいいね。」
どこか馬鹿にしたように、静かに放たれた言葉が杏の心をぐしゃりと、とどめとばかりに握り潰した気がした。
何?
この人……
言いたい言葉が、大量に頭の中に沸き起こる。言い訳?説明?
けど、そんな私に起きた事情は、今この人に話すようなことだろうか。
私のことを傷つけても構わないって思ってる、そんな人に。
こんな人に誠実に対応する理由が見つからなかった。
でも確かに、その通りなのだ。
そんなつもりも無かったのに、結果お父さんや祐馬におんぶに抱っこで。
なんで跡を継ぐだなんて、そこだけは変わらずにずっと思ってたんだろう。
今までいつかは戻れるとなんとなく思ってた。けど、そうじゃなかったら?
変な油汗が出て、お腹から込み上げるような圧迫感が杏を襲う。
今思えば私の周りは優しい人ばっかりだったんだ。私を甘やかして優しく包むメレンゲみたいに。優しさで包んで私の変化をずっと待っててくれて…
彼の言葉は体に変化や痛みを起こすスパイスみたいに私に届いた。
ノロマになった脳みそが勝手にそんなことを思う。
そんな杏の様子に気がついたのか、直人さんと盛り上がっていた真弓が声を掛けた。
「杏…?」
ハッと杏は我に帰った。
「わ、私…今日はもう帰るね。」
「え、大丈夫?」
「どうした?」
「大丈夫だから。」
その場から逃げるように杏は店を飛び出した。
「…え?紘。お前何言ったの?」
ガタリと紘も席を立った。
「直人、今日全部お前の奢りな。」
「ええ?」
残された四人はポカンと二人を見送った。
「多分…」
と奈々は真弓と顔を見合わせると、男性二人に話し始めた。
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