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通年のものは祐馬の手解きを受けた。
でも店の主が不在なのに…
店を主が帰って来るまで閉める?
そんな話もあったなか、二人が作った菓子を口に入れたお母さんが言った。
「店を開けましょう。」
問題だったのは春の練り切りだった。
誰も手解きを受けておらず、手元には一枚のレシピだけ。
けど私は、専門学校ではコンクールだって入賞したし、味も鮮明に覚えている。レシピさえあれば、おじいちゃんが作りあげた春の練り切りを再現出来る自信があった。
二人で試行錯誤した。
それなのに……
レシピ通りに作った練り切りは、見たことの無い色と、食べたことの無い味がした。
レシピを守らなければ、近いものは作れた。
けどそれでいいの?
何が違うの?
何度も試行錯誤したれど、発売日までに間に合わせることは出来なかった。
春の練り切りを出さない。
そういう選択肢もあったと思う。
けど、季節を告げる春の練り切りを楽しみにされている方もいる。
私はどうしても自分が作ったものを店に出す気にはなれなかった。
これさえ出来れば、全ての出雲屋の菓子が作れることになる。職人として認められる気がしたのに。
祐馬はそれからひとりで試行錯誤してくれてる。出雲屋に見合う春の練り切りを。
そう、私は逃げたのだ。
考えてみれば手解きも受けて自分が、職人の一人として入っていいのかも分からない。
菓子を作る気分にも、なれなかった。
お母さんは職人ではない。お父さんの許しをどこかで探していた気がする。
そしてお母さんは作業の補助しかしない杏を見兼ねてか、
「前からこうしたかったのよね。」
とイートインスペースを設け、甘味を出すカフェを作った。
そしてそちらを杏の担当にしたのだ。
〜〜〜
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