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二人は調理の専門学校も同じだった。
杏も作業場で動き出す。でも作るのは和菓子じゃない。カフェで出す甘味の方だった。
二人にとってはいつものこと。
何を話すでもなく、黙々と作業する。
よし、これでいいかな。
杏の担当分が終わり、作業場を出ようとした。
「なぁ。」
「ん?」
「今度出す、春の練り切り。味見してくんねぇ?」
一瞬杏の表情が固まった。
春の花の形をした和菓子が「食べて」と言わんばかりに綺麗に並んでいた。
「…あ〜、ごめん。お母さんにお願いしてもらっていい?私、暖簾出してくるね。」
逃げるように立ち去った杏の背を見送り、祐馬はとても小さなため息を吐いた。
作業場に入って来た楓が、全てを察したように優しく祐馬に微笑みながら
「どれどれ〜。」
と練り切りを手に取り口にした。
「どうですか?」
「う〜ん。美味しい。」
と楓は幸せそうに、口の中の幸せを噛み締めるように目を閉じて微笑んだ。
満面の笑みにも関わらず、祐馬は申し訳なさそうに視線を外した。
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