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「ちょっとどういうことよ〜。」
「だってまさか飽き性で自信家の真弓が、組織の中でそんなに偉くなるとは思わないでしょう。
先輩とかと喧嘩でもして、早々に自分の店始めるだろうなぁって思ってた。ねぇ、杏。」
と杏の隣の席の奈々が同意を求めて来る。
「思ってたね。」
いたずらそうな笑みを含んだ顔で杏はグラスの氷をカラリと鳴らして頷いた。
「ちょっと、ふたりしてそんな風に思ってたの?てか、まだ全然偉くなんてないでしょ。」
私達は専門学生の同期三人。久し振りに時間を合わせて会うことが出来たのだ。
お互い学生の雰囲気は変わらないまま、離れて過ごした月日だけ、少し垢抜けた女性になった気がする。
昔は背伸びをしても気後れして入れなかったような店にも今では自然に入れるようになった。
「奈々だって、念願叶って憧れてたお店に勤めてるんでしょ?」
「まぁ、それは…?本当運が良かったって言うか。」
気にしない素ぶりをしながらも、どこか誇らしげに奈々は飲み物を飲み干して、店員さんにグラスを振って同じ物を注文した。
「杏は……まだ手、震える?」
気の強い真弓がとこか遠慮がちに聞いた言葉に、杏は何も言わず一度頷いた。
そんな杏を見かねたように、二人の方が本人よりも聞いてしまったことに落ち込んだようだった。
奈々が躊躇いがちに口を開く。
「…まぁね。こればっかりはどうしようも無いよ。でもいつかきっと…って。私、待ってるから。同期一の杏の新作。」
「私も。結局一度も杏には勝てなかったもんなぁ、コンクール。」
真弓が悔しそうに過去に刻まれた、もうどうにも出来ない敗北を思い出して眉をしかめた。
そんな過去とは裏腹に、今の杏は一番遅れを取っている。
昔は何だって出来る気がしてた。自信もあった。なのに今は友人達の方が随分先を進んで、第一線で輝いている背中を眺めているだけのように杏は感じていた。
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