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それやばくね?
***
「それ、太川社長に一杯食わされてないか?」
営業所に帰った西田が誇らしげに語った商談結果を酒井亮太は切って捨てた。
同僚の成功を喜べぬ男に、西田は余裕の笑みを向ける。
「妬むな、妬むな」
「あのケチ社長がポンと3億払う気がしないって言ってんの」
「でも、人を8年雇うより割安って……損得勘定に聡い人ならではの決断だと思ったけど」
「だとしてもだ。飲食店みたいな油煙だの外気に晒される環境と精巧なエルゴEMとの相性がよくないのは周知だ。まだ、実際の耐用年数の検証が追っつかない状況ながら、現状は4年から5年なんて試算も開発部門から出てるの知らないのか? それを知って知らずか、大手外食チェーンに営業かけても全滅だったろ。それを、あのやり手社長が知らないわけない」
「……じゃあ、なんでこんな話を持ち掛けてきたんだよ」
正論で殴り倒された西田は仏頂面で酒井を睨む。
「まあ……試したいってのはあるかもなぁ。実際、エルゴEMのユーザー評判はかなりのモノだ。性能は勿論、仕草に惚れ込むユーザーが多いって聞くし。なかには自分好みに容姿をカスタマイズする強者もいるとか。それに応えちまうウチの開発も大概だけどさ。それを1日5万円のレンタルで体験できると思えば、って。西田、どうした?」
目を泳がせ始めた同僚に酒井は不審気な瞳を向ける。
「……てない」
「え?」
「レンタルの話をする雰囲気にならなくてさ……」
「は? お前それさ、よく話題になる『無料で仕事やってくれ』ってやつの亜種じゃないか。サービスをタダで試させろ。気に入ったら契約するから、みたいな」
「だってエルゴを10体買うって言ってるんだよ? 3億よ? そこは、まあまあ……ってなるじゃん!?」
縋るような視線の西田から酒井は顔を背けて事務仕事を再開させる。
「俺は知らん。聞いてない。所長にはお前の責任で説明しろ」
「一昨日、缶コーヒー驕ったろ?」
「90万円のレンタル代金を取り逃した面倒は140円じゃ釣り合わん!」
「冷たいぞ! 同期だろ!?」
立て付けの悪さを響かせドアが開いた。
「君らさ、仲がいいのは結構だけど、ほどほどにね。外まで聞こえてたよ」
「東雲所長……」
東日本営業所を纏める東雲靖一が外回りから帰ってきたのだ。
部下全員の視線を集めた四十路の管理職は「なに?」と不審気に問うた。
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