お得満載な試験

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お得満載な試験

***  金曜日。  商用バンの営業車に乗った東雲と西田が太川社長宅に到着したのは午後3時頃だった。  ハンドルを握る東雲が玄関に車を横づけにすると、西田がすかさず車を下りてバックドアを開ける。スライド式になった荷台の床を引き出し、仰向けな荷物の足首を掴んで地面へと誘う。小気味良いモータ音を伴い、地面に足が付くと荷物だったものが身体をゆっくり起こす。黒いロングスカートの揺れが収まるころには人の立ち姿で静止する。  エルゴEMタイプF。  女性体型オプションを装備した召使ロボット。  メイド服が標準であるのは開発部門のこだわりとか。ユーザーニーズにマッチすると国内外合わせたアンケート結果からも明らかだと胸を張っているらしい。 「太川社長宅の間取り、家具や物品配置……ご契約者様とご家族の情報は?」 「インポート済みでス」  東雲の問いに澱みなく答える電子音声。  顔は目の部分を隈取りだけした仮面のようなものだが、何故か仮面の下に本物の表情があると錯覚するほどの人間味を感じる。 「命令、セルフチェック」 「…………終わりましタ。異常ありませン」 「西田君は充電ベースやら付属品一式を持ってきてもらえるか」 「はい」  西田は答えながら後部座席より付属品の入った箱を抱え出す。 「すみません。所長の手を煩わせてしまって」  インターホンを鳴らす東雲に並んだ西田はポツリと呟いた。  東雲が無言でニッコリ頷いただけだったのは、インターホンから太川の声で応答があったからだった。 * 「ほう。こいつは見事なもんだ」  メイド服を着たエルゴEMの立ち姿を見た太川の第一声だった。  髪を模して樹脂成型された頭部、仮面の顔など、一目でロボットと分かる外見ながら、角ばった所のない滑らかな手足が織りなす佇まいは人と遜色ない。 「ご希望通りに女性型に調整しました。更に店舗稼働を視野にいれたテストということで、ウェイター機能をアドオンしてあります。勿論、召使機能も有効ですので、高所や不安定な場所での作業でなければ、ベッドメイクから食事の準備まで、なんなりとお申し付けください。オーダーすれば提携業者から食材を自動発注して、本格料理も可能です」  東雲の説明に頷きながらも太川はロボットから視線を離ない。 「どうやって使えばいいんだ?」 「人に接するように口頭で指示していただければ結構です。スマホとの連動」 「茶を入れてこい」  東雲の説明を遮り、太川がエルゴEMに命令する。 「はイ。三人分の紅茶でよろしいですカ?」 「お、おお、それで頼む」 「承知いたしましタ。少々お待ちくださイ」
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