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「これは、前向きな後悔なので。
あ、後悔なのに前向きなんておかしいですよね」
自嘲してグラスを持ち上げたが空だったと気づき、テーブルに戻す。
きっと、こんなふうにヤケになって好きでもない部長に抱かれたことを、次に恋をしたときに後悔するだろう。
でも、それで割り切って一歩でも前に進めれば、この後悔は無駄じゃない。
だから、後悔したっていいのだ。
「……わかりました」
頷いた部長が、グラスに残っていたお酒をひと息に飲み干す。
「じゃあ、行きましょうか」
促すように彼が立ち上がるので、私も荷物をまとめてそれに続いた。
お店を出て部長がタクシーを拾う。
一緒に乗り込み、窓の外を流れていく光をぼーっと見ていた。
富士野部長もずっと黙っている。
十五分ほど走って降りたのは、モダンな一軒家の前だった。
「ここ……」
「私の家です」
……富士野部長って何者?
そんな疑問が浮かんでくる。
白壁が美しい家は〝豪邸〟という言葉がぴったりだ。
確かに部長で私なんかよりはずっとお給料をもらっているだろう。
しかしうちの会社は二流の飲料メーカー。
社長の「いつか、高級スポーツカーを買いたい」との自虐ネタはもはや鉄板だ。
いや、買えないほど儲かっていないわけではないんだけれど。
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