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第一章 一番にはなれない私
アラームの音で目が覚めた。
しかしこれは、毎朝携帯から鳴っている音と違う。
「……何時?」
手探りで携帯を探そうと腕を伸ばしたら、なにかに当たった。
私はベッドに、ぬいぐるみの類いを置いていない。
なにか確認しようと目を開けると、富士野部長――たぶん――の顔が見えた。
「ひ……」
反射的に出そうになった悲鳴を、必死に飲み込む。
「ん……。
サクラ、ストップ……」
その声でアラームはぴたりと止まった。
この部屋のどこかに、スマートスピーカーが置いてあるのだろう。
富士野部長だと思われる男は寝返りを打ち、布団にもぐり直してまたすーすーと気持ちよさそうに寝息を立てだした。
「富士野部長……だよね?」
なぜ確定できないのかって、今の彼は眼鏡をかけていない上に、眠っているからだ。
ノー眼鏡の富士野部長なんて、私は見たことがない。
ここは富士野部長の家、状況的にたぶん事後、どうしてこんなことになっているんだっけと考えようとするが、まだ重い頭はうまく回らない。
ただおぼろげに昨晩、富士野部長に抱かれたのだというのだけは思い出した。
部長の寝顔を見ながら、これからを考える。
幸い、彼はまだ眠っているし、このまま帰って明日の月曜、素知らぬ顔で出社したらなかったことにならないだろうか?
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