第一章 一番にはなれない私

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濡れ髪を雑に撫でつけ、まだ上気した肌の彼は女の私なんかよりも色気がありすぎて、つい目を逸らしてしまう。 「紀藤さん」 「……はい」 促すように名前を呼ばれ、立ち上がる。 少し前を歩く部長に着いていった。 連れられていった部屋は当然、寝室だ。 「おいで」 広いベッドに座った彼が隣を軽くぽんぽんと叩き、優しく微笑みかける。 「……はい」 それに誘われるかのようにふらふらとそこに座った。 「本当にいいんですね?」 私の頬に触れ、眼鏡の向こうからじっと見つめている部長の瞳は、悲しみをたたえている。 「はい。 ……お願い、します」 その目を真っ直ぐに見つめ返し、了承の返事をする。 「わかりました」 私の言葉で彼は、重々しく頷いた。 そっと部長が、私をベッドに横たわらせる。 「その。 富士野部長」 「はい」 「……ハジメテ、なので、その。 ……優しくしてもらえると……」 こんなことを告白するのは恥ずかしくて、みるみる身体中が熱くなっていく。 「わかりました。 できるだけ優しくしますね」 私の髪を撫で、額に口付けを落としてきた部長は、酷く優しかった。 「それじゃあ」 そのひと言で、部長の纏う空気が変わった気がする。 現に。 「目は閉じてろ」
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