第一章 一番にはなれない私

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彼の口調が変わる。 彼の大きな手が私の顔に触れ、目を閉じさせた。 「俺を、好きな男だと思えばいい。 姿が見えなければ、想像できるだろ」 「……そう、ですね」 ちゅっと軽く、部長の唇が重なる。 「名を呼びたくなったら、その男の名を呼べ。 今だけ俺は富士野部長じゃなく、紀藤の好きなその男だ」 再び、唇が重なる。 さっきから部長は〝私〟ではなく〝俺〟と言っているが、もしかしてあわせてくれているんだろうか。 そういう気遣いが優しくて、部長に頼んでよかったと思えた。 私の唇を啄むように、繰り返される口付けがもどかしい。 つい、ねだるように甘い吐息が私の口から落ちた。 その隙を狙っていたかのように、彼がぬるりと侵入してくる。 そのまま、彼に翻弄された。 何度も丁寧に絶頂へと導かれた。 ぼーっとなった頭で、彼を迎え入れる。 「痛いか」 激しい痛みに耐えていたらそっと手が頬に触れ、目を開けた。 視界には酷く心配そうな部長の顔があった。 「痛い、です。 でもこれは、あの人を忘れるために必要な痛みだから」 精一杯、大丈夫だと笑顔を作る。 「……そうか」 短くそれだけ言い、部長は私の目をまた閉じさせた。 「可愛いよ、明日美は」 何度も落とされる口付けが、心地いい。
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