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彼の口調が変わる。
彼の大きな手が私の顔に触れ、目を閉じさせた。
「俺を、好きな男だと思えばいい。
姿が見えなければ、想像できるだろ」
「……そう、ですね」
ちゅっと軽く、部長の唇が重なる。
「名を呼びたくなったら、その男の名を呼べ。
今だけ俺は富士野部長じゃなく、紀藤の好きなその男だ」
再び、唇が重なる。
さっきから部長は〝私〟ではなく〝俺〟と言っているが、もしかしてあわせてくれているんだろうか。
そういう気遣いが優しくて、部長に頼んでよかったと思えた。
私の唇を啄むように、繰り返される口付けがもどかしい。
つい、ねだるように甘い吐息が私の口から落ちた。
その隙を狙っていたかのように、彼がぬるりと侵入してくる。
そのまま、彼に翻弄された。
何度も丁寧に絶頂へと導かれた。
ぼーっとなった頭で、彼を迎え入れる。
「痛いか」
激しい痛みに耐えていたらそっと手が頬に触れ、目を開けた。
視界には酷く心配そうな部長の顔があった。
「痛い、です。
でもこれは、あの人を忘れるために必要な痛みだから」
精一杯、大丈夫だと笑顔を作る。
「……そうか」
短くそれだけ言い、部長は私の目をまた閉じさせた。
「可愛いよ、明日美は」
何度も落とされる口付けが、心地いい。
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