第一章 一番にはなれない私

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痛いのは最初だけで、次第に彼に溺れていった。 「裕司さん、裕司さん、愛してる……!」 うわごとのように、今まで一度も口にしたことがない気持ちを吐露する。 別の男の名で呼ばれているのというのに、部長は私を咎めたりしなかった。 それどころか。 「俺も明日美を愛してる」 まるで両想いのかのごとく、返してくれる。 部長は裕司さんじゃない。 わかっている。 それでも長年の想いが叶った気がして、私の心は満たされた。 ぐったりと疲れ、瞼を閉じている私の頭を、部長が撫でてくれる。 「満足したか」 「……はい」 目が覚めたら。 裕司さんを忘れよう。 明日からあの人は私にとって、ただの姉の夫だ。 私の頭を撫でる部長の手が気持ちよくて、そのまま夢も見ない深い眠りへと落ちていった。 「着替え、置いとくな」 「あっ、はい!」 声をかけられ、意識が過去から現在へと戻る。 昨日はあれでいいと思ったが、今は富士野部長にどんな顔をしたらいいのかわからない。 置いてあった着替えはTシャツとハーフパンツだった。 とはいえ私が着ると、Tシャツはミニワンピ丈だし、ハーフパンツも七分丈くらいになったが。 「着替え、ありがとうございました……」 リビングへ行ったが部長の姿はない。
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